都内に広がる「完成在庫」マンション。実質新築の部屋でも中古価格で買える?

新築マンションは建設前に販売を進め、竣工事には完売しているケースも少なくない。しかし、昨今の東京23区内ではマンション完成後も販売を続けている、いわゆる「完成在庫」が増えているという。一部のマンションでは完成後も売れずに、値引き販売を行っているケースもあるのだとか。なぜ今、完成在庫が増加しているのだろうか。また、値引きされた完成在庫は狙い目なのだろうか。専門家に聞いてみた。

●完成在庫が増えている原因の一つはインバウンド

完成在庫がここまで増加した理由について、住宅ジャーナリストの榊淳司氏はこう分析する。

榊氏「完成在庫が増えた理由はマンションの需要が下がったからではありません。単純にマンションの販売価格が高くなったからです。近年、マンション用地の高騰に伴い、建設費も上がったことで新築マンションの販売価格も高くせざるをえなくなりました。さらに人口が右肩下がりにも関わらず、マンションを供給し続けた結果が完成在庫につながっていったんです」

2015年頃からマンション用地が値上がりしたことが事の発端のようだ。では、なぜマンション用地は高騰したのだろうか。

榊氏「大きくはインバウンドが関係しています。ここ数年、外国人観光客が増える一方で宿泊施設は不足していました。そこで、2016年に東京都は宿泊施設の容積率を緩和。その結果、開発に適した事業用地をホテル業者がどんどんと高値で買っていったんです。そうなると、あおりを受けたマンション業者も高値で土地を購入しなくてはなりません。つまり、マンション用地にホテル業者が参入したことが高騰の原因になります」

とはいえ、例年に比べて販売価格の高い新築マンションを販売すれば消費者も手は出さないと予想もつくはず。しかしながら、高値の新築マンションは思いのほか売れていったそうだ。

榊氏「1つに中国人の爆買いがあります。彼らはセカンドハウスや日本でのビジネス拠点として新築マンションを購入していきました。当時、新築マンションの販売数を支えていたのは外国人、特に中国人ではないかと言われているほどです。さらに、2015年には相続税対策として日本人富裕層にも新築マンションは人気でした。そのため、高値だろうが新築マンションは売れに売れ、不動産業界はバブル期を迎えていたんです。しかし、現在は爆買いが収まり、相続税対策の法律も廃止されたにも関わらず、マンション業者は建設を続けていた結果、完成在庫が溢れて行きました。言ってしまえば、現在の完成在庫は数年前に起きたバブル期の余波なんです」

●エリア別にみる完成在庫

完成在庫が見受けられ始めた2016年、当初は世田谷区に溢れていたという榊氏。人気のエリアなだけに売れ残ることはなさそうに思えるが......

榊氏「人気エリアだからこそ、マンション業者は強気で土地を買っていきました。ところが人気なエリアほど値上がりも大きかったんですね。さらにいうと、世田谷区は実際に住むことが目的の実需案件の方ばかりで、投資案件には適していませんでした。その挙句に完成在庫が増えていったんです。最初は私も局地バブルだと思っていたのですが、蓋を開けてみたら23区全域で広がっていきましたね」

なお、昨年は世田谷区だけでなく、品川区、大田区、目黒区でも1.2倍〜1.5倍の価格でマンションが販売されていたそう。また、エリアによっては販売されているマンションの6割以上が完成在庫というケースが見受けられたという。

榊氏「今現在で完成在庫がほとんどないのは、湾岸エリアぐらいじゃないでしょうか? 五輪の決定以降、実需案件としても多少の需要はありましたが、やはり多くは先ほど説明した外国人の爆買い、日本人富裕層の相続税対策、個人投資家の賃貸運用や値上がり期待の投資案件として売れていきました。しかし、結局のところは『新築未入居』のまま、中古市場で大量に売り出され、新築マンションの購入価格の2割程度値上げして売られていましたよ」

●完成在庫は購入チャンス?

高値で供給され続けた新築マンション。最近では年々微減しつつも、完成在庫は来年以降も増えると予測する榊氏。これから、そうした完成在庫の激しい値引き合戦が始まる可能性があるという。では、消費者にとっては「買い」なのだろうか?

榊氏「すぐに手を出すことは避けた方が無難だと思います。たしかに、完成在庫は値引きされることが多く、お得な気もします。しかし、6500万円の物件が500万円値引きされたからといっても、本来は5000万円でも高い物件という可能性もあります。もし、気になるエリアやマンションを見つけた場合は不動産屋、もしくはマンション市場に詳しい人に相談することをオススメします」

まずは、市場価格や相場を把握した上でじっくりと見極めること。そのためには、定点観測が大切だという。

榊氏「長年、狙っているエリアを観察していれば市場価格や相場にも詳しくなりますし、どれだけ高くなっているかも把握できます。仮に狙っているマンションを完成前から見ていれば、どれくらい落ちてきたら購入すべきか、自分でも判断がつくでしょう。要は、市場価格や相場を理解した上で惑わされずに購入するのであれば、完成在庫は購入しても良いと思います」

なお、新築マンションにおいては、エリアや時期によって値引き額も変わってくるとのこと。

榊氏「一概には言えませんが、決算前の3月はマンション業者も完成在庫を売り上げにしたいのが本音です。そのため、1月2月はチャンスと言えるでしょう。完成在庫であれば、1割以上の値引きが出る可能性もありますから。また、エリアでは川崎市の川崎区がオススメです。坪単価は200 万円ほど。同じ川崎市の武蔵小杉が400万円程ですから、同じような立地条件でも倍の違いがあります。くわえて、瞬間的ではあるものの、今は中央区の馬喰町あたりで値引き合戦が行われています。少し離れただけで坪単価400万円ほどの立地ですが、駅5分圏内の新築マンションが坪単価320万円にまで下がっていました」

さらに購入する際、完成在庫がどの程度残っているかを見極めることで、値引きできる可能性も高いという。

榊氏「マンションのオフィシャルページを見れば、完成在庫がどの程度まで残っているか見極めることができます。例えば、オフィシャルページに◯万円プレゼント、◯万円キャンペーンを謳っていたらマンション業者も焦っている可能性が高いのでチャンスですね。ほかにも、完成在庫を"モデルルームとして活用しているため値引き"と堂々と書いてある場合、モデルルームに限らず、全ての部屋で値引きが適用されるはずです。もし、エリアや時期が重なれば、1000万円の値引き物件とも出会えるかもしれませんよ」

まだまだ増えることが予想される完成在庫。値引きされていたとしても、すぐに購入するのではなく、まずは市場価格や相場を把握し、見極めた上で購入した方が賢明と言えそうだ。

取材・文:小野洋平(やじろべえ)

この記事をシェアする

取材協力

榊淳司

不動産ジャーナリスト・榊マンション市場研究所主宰。
1962年京都市生まれ。同志社大学法学部、慶應義塾大学文学部卒業。
主に首都圏のマンション市場に関する様々な分析や情報を発信。
東京23内、川崎市、大阪市等の新築マンション建築現場を
年間500か所以上現地調査し、各物件別の資産価値評価を
有料レポートとしてエンドユーザー向けに提供。
「文藝春秋オピニオン 2018年の論点100」にオピニオンリーダーとして執筆。
その他経済誌、週刊誌、新聞等にマンション市場に関するコメント掲載多数。
主な著書に「2025年東京不動産大暴落(イースト新書)※現在5刷り」、
「マンション格差(講談社現代新書)※現在5刷り」、
「マンションは日本人を幸せにするか(集英社新書)※現在2刷り」等。
夕刊フジ、現代ビジネス、NEWSポストセブン等に連載。
「たけしのテレビタックル」などテレビ、ラジオの出演多数。
早稲田大学オープンカレッジ講師。