持ち家が地震で倒壊したら、住宅ローンはどうなるの?

2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震など、自然災害はさまざまな被害をもたらします。もし地震で家が壊れた場合、住宅ローンはどうなるのでしょうか? ファイナンシャルプランナーの大石泉さんに聞きました。

●住宅ローンが免除されることはあるの?

「住宅ローンは借金のため、地震などの被害に遭って家が壊れても返済の免除は基本的にありません。状況によっては救済策もありますが、まずは住宅ローンの現状把握が大切です」(大石さん 以下同)

家が倒壊した場合、その家の建て直しや補修、買い替えなどを検討することになるでしょう。今借りている住宅ローンの残債や残期間、金利を確認し、新たに住宅ローンを借りるかどうか借りられるかどうかを検討します。

このとき、意外な落とし穴になるのが「地震保険」です。

「地震保険は単独では加入できず、火災保険とセットになります。そして、その契約額は火災保険の30~50%。火災保険の保険金額が1,000万円場合、最大500万円までしかかけられないのです。そのため、地震保険は家の建て直しや大規模な補修を賄えるほどの保険金は出ません。あくまで、生活再建のためのお金と考えましょう」

●住宅ローンの負担が厳しい場合の救済措置

住宅ローンを新たに借りる場合、多くの人は以前からの住宅ローンの返済と併せて2重ローン状態になってしまいます。そうなると、返済の負担が以前よりも肩にのしかかることに......。

「そうした場合、被災者を対象に『債務の減免』『返済期間の延長』『返済方法の変更』などの救済措置が行われることもあります。もし自主的に対処するとしたら、たとえば『債務整理』もその一つの手段になります。債務整理には私的整理と法的整理があり、まずは私的整理から考えるといいでしょう」

■私的整理

自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(全国銀行協会)

私的整理とは、破産法・民事再生法・会社更生法などの法的倒産処理手続によらずに、多数債権者と債務者との合意により、集団的に債権債務を処理する手続の総称ですが、当ガイドラインでは、金融機関債権者と住宅ローンなどを借りている個人債務者間の債務において、ガイドラインに沿って一定の要件を満たせば、法的倒産手続きをすることなく、債権者と債務者の合意によって返済までの道筋を付けることができるというものです。

「たとえば、話し合いによって2,000万円の債務のうち1,000万円が免除になるなど、債務者の負担が楽になる可能性もあります。手続きが早く、さらにブラックリストに載ることもないため、新しく住宅ローンを組みやすいのが特徴です。さらに、弁護士による支援を受けた場合、弁護士費用もかかりません」

■法的整理

自己破産(破産法)

裁判所に申し立てをして債務免除する方法が法的整理ですが、自己破産は裁判所に申し立てて免責が許可されると、税金などを除く債務の返済を免除してもらえる制度です。ただし、住宅以外に目立った財産を持っていると、それらを失うことになります。

「自己破産の手続きを取ると、借金がすべて帳消しになりますが、最低ラインの生活ができる分しかお金は手元に残りません。また、2年間は住宅ローンを借りることができなくなります。ブラックリストにも載ってしまうため、自己破産の申し立ては慎重に考えましょう」

ほかには、次のような制度を覚えておくと、いざというときに役立ちます。

■災害発生前に備えておく

少額短期保険(日本少額短期保険協会)
一定の範囲内で、少額かつ短期の保険契約を引き受ける保険。ただし保険区分に応じて、引き受ける保険金額には上限があります。

「少額短期保険の中には、地震の補償を目的としたものもあります。単独で加入することもでき、世帯人数によっては900万円まで補償があることも。家計を圧迫しないのであれば、加入を検討してもよいでしょう」

■災害発生後に検討

災害復興住宅融資(住宅金融支援機構)
独立行政法人による被災住宅を復旧するための融資制度。自然災害によって被害が生じた住宅の所有者や居住者を対象に、住宅の建設・購入・補修費用を貸し付けてくれます。

「災害復興住宅融資では、地方公共団体が発行する『り災証明書』が必要です。また、建築、購入、補修のための利用にあたっては年収制限があります。『年収400万円未満の場合は、総返済負担率30%以下、年収400万円以上の場合は 総返済負担率35%以下』です。総返済負担率を計算する際は、ほかの各種ローンを含めて計算します。借り過ぎないためのルールとしてはありがたいですが、思った以上には借りられないということもあるため、家計の資産や借入など、日ごろから把握しておく必要があります」

このほか、独自の救済措置を用意する自治体も。たとえば、宮城県には復興の「住宅再建支援事業」として、条件を満たせば「既存の住宅ローンにかかる5年間の利子相当額を補助する」事業があります。

●住宅ローンを組むときは、必ずリスクの考慮を!

さまざまな救済策はあるものの、いずれも住宅ローンが免責されるわけではありません。住宅ローンを借りたら、いかなる状況になっても返済し続けていくことを想定しなくてはならないのです。

「災害などに備えた最大のリスクヘッジは、住宅ローンを借り過ぎないことです。天災に限らず、病気やリストラなど、人生にはさまざまなトラブルが起こり得るもの。住宅ローンを払いながらも貯金ができるよう、無理なく払い続けられる返済計画を立てることが重要です」

そもそも、今回ご紹介した各制度は、その存在自体を知らないと申し込むことができません。万一に備えてどういった救済制度があるのか。できれば住宅ローンを組む前に、こういった情報をきちんと調べることから始めてみましょう。

取材・執筆:南澤悠佳
有限会社ノオト所属の編集者、ライター。得意分野はマネー、経済。子育てや不動産、会計など、企業のオウンドメディアを中心に担当する。Twitter ID:@haruharuka__

記事編集:有限会社ノオト

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取材協力

大石 泉さん

ファイナンシャルプランナー。株式会社NIE.Eカレッジ 代表取締役。一般社団法人夢の実現サポーター 代表理事。幸せ住まいライフ塾 主宰。著書に『「自分らしさ」をかなえる!女性のためのマンション選びとお金の本』(平凡社)など。
▼公式サイト
http://www.izumi-ohishi.co.jp/profile.html