日本銀行(日銀)によるマイナス金利の導入により、今、不動産投資向けの融資が緩和傾向にあります。そのため、資産運用の有力な選択肢として不動産投資に注目が集まっています。さらに、2020年の東京オリンピックに向けた再開発も投資を後押しするポイントです。
しかし、現状は本当に不動産投資に有利なのか、そしてその状況は今後も続くのか? 不動産投資を取り巻く現状をソニー不動産売却コンサルティング事業部部長の望月弘さんに解説してもらいました。
「不動産投資に興味、関心を持っているのは、年収ゾーンがミドルクラスの層です。将来的には年金受給開始年齢の引き上げや年金の減額、医療費の負担増なども指摘されています。漠然とした不安な将来に備えるため、資産防衛の一つとして不動産投資がホットになっているのではないでしょうか」(望月さん 以下同)
融資の緩和を受けて手が届きやすくなった投資物件に潜むリスクとは
不動産投資の持ち味は安定した利回りです。低金利時代で預貯金が不利な中、寝かせているお金があったら、資産防衛のために運用したいというのが個人投資家の本音でしょう。しかし、投資物件の多くが値上がりしている現状は見逃せません。望月さんによると、そこには隠れたリスクがあるそうです。
「本来は融資されないような物件、つまり低利回りの物件でも買われているというのが現状です。たとえば、郊外の木造アパート。今までの金融機関の考えでは築15年が経過した駅から遠い木造アパートには融資がされませんでした。しかし、現在では郊外型の物件でも融資がつき、サラリーマンの方でも購入できるのです」
では、その郊外木造アパートはどうなるでしょうか。契約を終えた入居者が退去した後に残るのは、古くて駅から遠い部屋。なかなか入居者が決まらず、空室率が上がってしまいます。利回り7%という数字は満室であってこそ。空室率が30%を切れば、利回りは1%に落ち込んでしまいます。空室率と経年劣化による修繕費用の増大。不動産投資家は、やっかいな2つの問題に頭を悩ませることになるかもしれません。
シビアな近未来を見すえ、不動産投資で生き抜くためには
先行きが不透明な不動産投資シーンを生き抜くためには「再生」「差別化」がキーワードになる、と望月さんは提言します。
「近年、BtoBでよく使われる言葉に『リファイニング建築』というものがあります。これは老朽化したビルを再利用して内外装をキレイにし、さらに耐震性を補強するというスタイル。これにより費用は新築する場合の3分の2程度、工期も通常2年のところが半年程度で建ちます。ビルを解体せずに行うリファイニングの何がいいか? 工費や工期だけがメリットではありません。新築と同程度の賃料に設定できる。これが大きな魅力です」
さらに、物件の差別化もしやすいといいます。
「リファイニング建築は、いわば"再生による差別化"。レイアウトなども自由に変更できるため、一般のオーナーさまが採用しても大きなメリットになるでしょう。また、この差別化という観点は個人の不動産投資にも通用する戦略です。私がオーナーさまから聞いた話では、『24時間いつでも楽器が弾ける環境を整えた音楽家専用マンションを作ったら家賃を2倍に設定できた』『足洗い場などを設けたペット歓迎の物件で空室率の低下を抑えられた』という例もありました。差別化され、希少性を備えた物件は、空室率上昇時代でも強いんです」
差別化戦略に加えて、望月さんは情報力の増強も提案しました。住宅業界、賃貸業界の最新情報を仕入れてトレンドを見極め、手持ちの物件にフィードバックしていくことが大切です。今後の不動産投資では、情報力とフットワークの軽さがさらに求められていくことになるでしょう。
取材・執筆:佐々木正孝
ライター/編集者。有限会社キッズファクトリー代表。情報誌、ムック、Webを中心として、フード、トレンド、IT、ガジェットに関する記事を執筆している。
編集協力:有限会社ノオト