資産運用の有力な選択肢として注目が集まっている不動産投資。相続税や贈与税の軽減に効果が大きいといわれていますが、節税面でのメリットはそれだけではありません。副業で行っているサラリーマンにも見逃せない節税効果があります。伊藤会計事務所代表の公認会計士・税理士である伊藤英佑さんに教えてもらいました。
「不動産『投資』といいますが、本質的には『賃貸経営ビジネス』です。給与所得がある人であれば、不動産所得が赤字なら節税できることは事実です」(伊藤さん 以下同)
まず挙げられるのは所得税の節税効果です。伊藤さんの言葉にあるように、一般の会社員の給料は「給与所得」で、不動産投資によって得られる家賃収入は「不動産所得」になります。不動産所得の算出方法は下記の通り。
不動産所得=年間家賃収入-経費(管理費、保険料、借入金の利子、減価償却費)
サラリーマンが物件を購入し、家賃収入を得るようになると「不動産所得」が発生します。そうなると、自分で確定申告をしなければなりません。ここで所得税の節税メリットが浮上します。物件の管理費や保険料、ローン返済額の利子分、建物の減価償却費、固定資産税などの税金です。
「不動産所得が赤字になると、給与所得との損益通算(※)により給与所得において支払った所得税の一部が還付になります。借入の元本返済分も経費になると思っている人がいますが、経費になるのは利子分のみなので注意してくださいね」
※損益通算......複数の所得を得ている場合、一つの区分の所得が赤字だった場合、ほかの区分の所得から赤字分を差し引いて利益と損失を相殺すること。
●不動産投資節税の具体的なメリットにフォーカス!
具体的な節税メリットは以下の2つです。不動産投資をスタートするには利回りをおさえた収支計画が必須ですが、これら節税効果を織り込んでキャッシュフローを見ていく必要があります。
メリット1:初年度は赤字になることが多く節税効果大
前述の式で見た通り、減価償却費、ローン返済に伴う利息支払いなどが大きければ、不動産所得は赤字になります。ただ、赤字になるのは帳簿上。実際は家賃収入によるキャッシュの入金が期待できます。
「初期費用である不動産取得税などの支払いがありますので、初年度は赤字になることの方が多いかもしれません」
メリット2:建物に関する減価償却費を計上できる
建物や車、パソコンなどのように、時間の経過によって価値が減っていくものを「減価償却資産」と呼びます。減価償却資産の取得にかかった費用は、税法で定められた「法定耐用年数」に沿って、一定期間にわたって必要経費に計上できます。これが「減価償却」で、経費にできる金額が「減価償却費」です。実際に支出してはいないのに経費として計上できる。これが大きな節税効果になります。
「初期費用の支出が終わっても、建物に係る減価償却費を計上できるのはメリットの一つでしょう」
●不動産投資における節税はあくまで「サブ」
しかしもちろん、注意点もあります。金融機関は、赤字で利益を出していない投資家にはなかなか融資をしてくれません。節税ばかりに注意を払っていては、物件を購入する際の融資に悪影響が及ぶこともあるようです。
「不動産所得を赤字にすると新規融資に不利になります。節税目的のみで、不動産を増やすつもりがない人は関係ないかもしれませんが、不動産投資の本質は、物件を増やして将来のインカムゲインを増やすことにあります。節税を駆使しながら資産を殖やすこと自体は間違ってはいませんが、節税と不動産賃貸物件を増やしていくことは両立しないものなのです」
節税メリットは確かに見逃せませんが、本来の不動産投資によるダイナミックなリターンをおざなりにしては本末転倒になりかねません。
「節税や目先の数字ばかりに目を向けると、空室リスクや大規模修繕、賃料下落リスクといったキャッシュフローの思わぬ痛手を受ける可能性も高くなります。物件の目利きもおろそかにしないことが大事。その上で、減価償却期間が短く取れる中古物件を選び、税効率の向上を考えていくのが良いでしょう」
不動産投資における節税はあくまで副次効果です。「給与所得と不動産所得の損益通算」「減価償却費」といったキーワードをしっかり学びつつ、「賃貸経営ビジネス」に注力するのが王道といえるでしょう。
取材・文:佐々木正孝
ライター/編集者。有限会社キッズファクトリー代表。情報誌、ムック、Webを中心として、フード、トレンド、IT、ガジェットに関する記事を執筆している。
編集協力:有限会社ノオト