2017年12月、マンション管理組合の理事長は理事会で解任できるかについて、最高裁が「マンション管理組合の理事会で選ばれた理事長ならば、理事会で解任できる」という判断を示したことが話題になりました。当該マンションの管理規約に「理事長を理事会で解任できる」と記されていなかったことから、一、二審の判決では「解任は無効」となったものの、最高裁は「解任できる」と示した点です。
「分譲マンションの多くが参考にしている、国土交通省作成の『標準管理規約』にも『理事長を理事会で解任できる』とは記されていないので、今後同様の問題が起きた場合にはこの判例が指針になるでしょう」(平賀さん 以下同)
そう話してくれたのは、マンション管理組合の問題にも詳しい住宅コンサルタントの平賀功一さん。分譲マンションに住んでいれば、こうした判例も無縁なことではないのですが、マンション管理組合や理事会の役割について"詳しいことは知らない"という方も少なくないようです。マンション管理組合や理事会について、平賀さんに教えていただきました。
●マンションを購入したら加入は必須!?
まず知りたいのはマンション管理組合のこと。分譲マンションを購入したら、必ず入らなければいけないのでしょうか?
「マンション管理組合は、区分所有法という法律で定められた団体で、一致団結して、マンションの資産価値や機能を維持し向上させていくための組織です。加入の意思があるかどうかに関わらず、分譲マンションを購入した区分所有者は全員がその構成員となり、加入を断ることも脱退もできません。一方、解任(除名)されることもありません。また、専有部分を賃貸にして、所有者本人はそのマンションに住んでいなくても管理組合の構成員になります」
マンション管理組合の中で、理事会にはどのような役割がありますか?
「理事会は『管理組合の運営にかかる業務を執行する機関』で、マンション管理組合が抱えるさまざまな問題について、理事全員で解決策を話し合って対応していきます。選出の仕方や理事の人数、また、理事長、副理事、理事、会計担当、監事などの業務についてもマンションの管理規約に記載されています。国土交通省『平成25年度マンション総合調査』によれば、管理組合の72.7%が順番制で役員を選んでいるそうです」
●住民トラブルから修繕計画まで 多岐に渡る理事会の仕事とは?
もしも、理事を打診されたら......。気になるのは理事会の仕事内容でしょう。どのような仕事があるのでしょうか?
「理事会は、快適なマンションでの暮らしを実現・維持していくための仕事を請け負います。具体的には、役員のなり手不足への対策や高齢者ケア、ペットや騒音による住民トラブルの解決など『ヒト』に関すること、建物の修繕計画や地震対策など『モノ』に関すること、管理費の滞納や修繕積立金の残高不足の問題への対応・対策など『カネ』に関することがあります。今後に向けて新たな問題や仕事もでてきています」
平賀さんによれば、理事会が早急に対応を決めなければならないのが「民泊」への対応・対策です。
「2018年6月15日に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されると、事業者として届け出れば分譲マンション内でも合法的に民泊事業が行えるようになります。マンション管理組合としては、民泊を認めるのか禁止するのか早急に結論を出し、禁止する場合には管理規約を改正して禁止の旨を明確にしておくことが重要となります。逆に、認可する場合は使用細則を制定し、民泊ルールを作成しておくと後々の住民トラブル対策に役立ちます」
●マンション住人の高齢化に伴うさまざまな問題への対処も!
今後は、マンションの住人の高齢化に伴うさまざまな問題も予想されています。
「国土交通省『平成25年度マンション総合調査』によれば、全国の分譲マンションの世帯主の年齢構成は60歳以上が50%で、2人に1人が60歳以上です。そのため、高齢化によるさまざまな問題が起こる可能性があります。たとえば、一人暮らしの高齢者による管理費などの滞納や認知症による徘徊、孤独死などもあるでしょう。本人が亡くなった場合は、理事会から遺族に管理費の滞納分などを請求しますが、相続人が見つからない、あるいは、遺族が相続放棄して請求先が見当たらない場合には、管理組合が家庭裁判所に相続財産管理人選任の申し立てを行います」
大変なことばかりに思える理事会の仕事ですが、メリットはあるのでしょうか?
「私自身も理事長の経験があります。理事会への出席や書類のチェックなどで時間を取られますが、マンション管理の知識が身につきます。いろいろな方と接する機会も増えるので人間関係も広がります。なにより、理事会での仕事は"資産価値の向上"という形で自身に還元されるものだと考えています」
マンション管理組合や理事会について知ることは、マンションという共有財産を守っていくためには欠かせない要素といえそうです。
取材・執筆:川野ヒロミ
埼玉県出身。1998年よりイラストレーターとライターの2本立てでフリーランスで活動。大手企業のWebサイトの立ち上げなどにも関わる。モットーは「ヒト、コト、モノをわかりやすい言葉で伝える。
編集協力:有限会社ノオト