貸主が勝手に処分するのはNG! 引っ越し後に発覚した残置物はどうすれば?

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賃貸マンションやアパートを経営していると、さまざまな問題に直面します。その一つが、引っ越しの際に借主が置いていった残置物(家具や荷物など)をめぐる問題です。引っ越し先に連絡をしても取りに来ないときには、貸主が処分してしまってもいいのでしょうか?

「まずは、借主から『残された家具などの所有権を放棄する』という書面をもらいましょう。書面がなければ、引っ越し後に残った荷物を貸主は勝手に処分することはできません」

こう話すのは、『賃貸建物のトラブルQ&A (暮らしの法律問題シリーズ)』(中央経済社)の著者(共著)で、馬場・澤田法律事務所の弁護士、長森亨さん。

「貸主が勝手に借主の荷物を処分することは法律的に認められていません。処分した場合には、損害賠償請求や器物損壊罪の対象になる可能性があります」(長森さん 以下同)

●一般的な引っ越しなら、残置物トラブルはほぼ防げる

貸主にとっては気が重くなりそうな問題ですが、長森さんによれば、一般的な引っ越しでは残置物のトラブルはほぼないといいます。

「退去する際には、借主と貸主、または、管理会社の方が立ち会って、原状回復が必要な場所や荷物の搬出状況を確認した上で、鍵の返却などを行い『明渡し』が完了します。もし、この時点で家具や書類など荷物が残っていたときには、その場で取扱いを確認します。たとえば、『貸主の○○さんに処分してもらうということで了解しました』などのように書いてもらいます。取扱いを書面に残すことがトラブル防止につながります」

●退去の確認が取れないまま借主がいなくなったらどうすれば?

一方、残置物がトラブルに発展するとしたら、家具などを残したまま借主がいなくなってしまったとき。こうした場合は、どのように対処すればいいのでしょう?

「気を付けていただきたいのが、貸主が『どうせ戻ってこないから、この賃貸借契約は終わっている』と勝手に解釈して室内に入り、残置物を勝手に処分することはできないということ。また、賃料滞納があるなどの理由で賃貸借契約を解除したとしても、退去の確認ができないままでは、貸主は残置物を処分することはできません。処分をするには、訴訟を起こし明渡しを命じる判決を受けることが必要となります。判決が出ても借主が荷物を搬出しないときは、強制執行手続により強制的に荷物を搬出することができます」

借主の居場所が不明であっても、「明渡し訴訟」であれば、公示送達という方法によって訴状を送達することが認められるので、訴訟を進めることができるそうです。

また、賃貸借契約書に残置物の処分について書いてある場合でも、貸主が勝手に処分することは難しいといいます。

「たとえ入居時の賃貸借契約書に『賃借人(借主)が契約終了後も荷物を搬出しないときには、賃貸人(貸主)は荷物を搬出することができる』と書かれている場合でも、訴訟を起こす必要があります。法的な手続なしで残置物の処分をすることが正当化されることは、めったにありません。とはいえ、このような条文が賃貸人に有利に働くケースがない訳ではありませんので、契約書に残置動産を撤去できる旨の条文を入れておくことは重要なことです」

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●訴訟から強制執行までにかかる期間と費用負担

もし訴訟を起こした場合、強制執行までの期間はどれくらいかかりますか?

「借主との争いがない場合で、早くて3~4カ月くらいです。訴訟を起こしてから裁判までが1~2カ月。賃料滞納など契約の解除原因が借主にあることが明らかな場合には、裁判の日から1週間後には判決が出ます。その後、強制執行の申立てをすると、執行官が賃貸物件を訪問して借主に『明渡し』の催告をします。強制執行は原則として催告の日から1か月後の日が指定されます。催告の時点で借主がいなくなっていた場合には、その場で『明渡し』を行うこともあります。スムーズに進まない場合もあるので、早いケースでも半年くらいはかかると考えておいた方が良いでしょう」

強制執行や残置物の処分にかかる費用は、貸主が負担しなくてはいけないのでしょうか?

「強制執行で運び出された荷物は、一定期間保管された後で競売にかけられます。これらにかかる費用は一旦貸主が負担しますが、後で借主に請求できます。しかし、残念ながら回収できない場合がほとんどです」

こうしてみると、残置物をめぐる対応では貸主の負担が大きく感じます。しかし、最初に長森さんが話したように「一般的な引っ越しでは大きなトラブルに発展することはほとんどない」とのこと。万が一に備え、退去時の確認を確実に行い、荷物が残っていた場合には残置物の処分等取り扱い方法を書面に残すことはしておきましょう。


取材・執筆:川野ヒロミ
埼玉県出身。1998年よりイラストレーターとライターの2本立てでフリーランスで活動。大手企業のWebサイトの立ち上げなどにも関わる。モットーは「ヒト、コト、モノをわかりやすい言葉で伝える」。

編集協力:有限会社ノオト

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取材協力

長森 亨(ながもり・とおる)弁護士

企業法務、一般民事事件のほか、分譲マンションの管理や賃貸物件をめぐるトラブルの法律的解決にも取り組む。日弁連民事裁判手続に関する委員会、同家事法制委員会委員。主な著書に『賃貸建物のトラブルQ&A』『分譲マンションの紛争Q&A』(いずれも中央経済社・共著)。
▼馬場・澤田法律事務所
http://www.babasawada.com/