両親が暮らしてきた家や土地など、不動産相続には何かとトラブルが付きもの。親子や兄弟間での無用な争いを避けるためにも、あらかじめ押さえておくべきポイントを、青山財産ネットワークスで相続にまつわる数々の不動産問題を解決してきた高田吉孝さんにお聞きしました!
●戸建て住居の相続をめぐり、没交渉状態へ
今回、編集部でキャッチしたのは、神奈川県横浜市内に戸建ての住居を所有するAさん(60代男性)の事例。こちらはもともと、Aさんとその父親が、親子共有名義で建てた家でした。
ところが父親の逝去後、その所有権(1/2)が母親に相続されます。さらに数年後、母の逝去によって、今度はその所有分が、Aさんと姉が相続することに。つまり3/4をAさん、残る1/4を姉が所有する状態となりました。
ここでAさんにとって誤算だったのは、姉がその1/4の所有権を頑なに主張したことでした。Aさんとしては、親子で長く住んできた家ですから、当然のごとく自分たちの所有物になることを姉が了解してくれるものと高をくくっていましたが、Aさんの姉は、「正当な相続によって得た資産だから」と譲りません。やがて議論は姉弟間の争いにエスカレートし、ついには没交渉の状態に......。
こうなると、Aさんとしては勝手に家を売却することも建て替えることもできず、どうにも身動きが取れません。何より、Aさんには2人の息子がいるのですが、万が一、姉が亡くなったりすると、もっとやっかいなことになりそう。一体どうすればいいのでしょうか......?
●不動産トラブルの解決策は、売買・交換・贈与の3パターン
「不動産の共有問題を解決する方法は、基本的には『売買』『交換』『贈与』の3パターンしかありません。このAさんのケースは、幸いにして構図はシンプルで、解消すべき問題は姉の1/4の持ち分をどうするか、ということのみ。ですから、売買もしくは贈与で解決を図ることになるでしょう」(高田さん 以下同)
たしかに、所有する権利を売ったり贈与したりというのは、わかりやすい解決法といえます。
ちなみに「交換」というのは、複数の不動産が共有になっている場合によく用いられる手法です。たとえば、親が遺した建物が2棟あり、これを2人の兄弟が共有で相続した場合は、1棟あたり1/2ずつの所有権を持つことになります。そこで互いの持ち分を交換し合い、各々が1軒ずつ所有するかたちに権利を整理するわけです。この際、交換する不動産が要件を満たしていれば、「固定資産の交換の特例」というものを使うことができ、本来であれば発生する譲渡税が免除されるという利点もあるのだとか。
しかし、今回のAさんの事例に使えるのは、売買か贈与のみ。最もわかりやすい解決策は、態度を硬化させている姉から、1/4の権利を買い取ることだと高田さんは語ります。
「現実問題として、こうした不動産の共有状態をきれいに整理するには、共同で売却したり、どちらかが買い取るなど、お金で解決するしかないのが実情です。しかし、関係がこじれると正常な話し合いができません。同様の事例は少なくないため、こうした不動産の共有持ち分を安く購入してビジネスにしている不動産業者も存在しています」
●このままでは、さらに問題が悪化する可能性も......
今後、団塊世代の高齢化に伴い多くの団塊ジュニアを襲うことが予想されるこの問題。そもそも、こうしたトラブルを起こさないためには、何に気をつけておけばよかったのでしょう?
「Aさんのケースにおける根本的な原因は、安易に不動産を共有してしまったことに尽きます。たとえ血を分けた兄弟であっても、不動産の共有は基本的にNGと心得るべきでしょう。特に、順列のない"ヨコ"の共有はトラブルに陥りがちです。このケースのように、そこに住み続ける人が明確な場合など、あらかじめ後継者が決まっているのであれば、遺言状で"タテ"の相続(※親から子、あるいは孫への相続)を明確にしておくべきでしょう」
親子で不動産を共有するケースは多いでしょうが、これが相続時に兄弟間での共有にスライドしないよう、最大限の配慮をするべきだと高田さんは語ります。なぜなら、こうした問題は、さらに泥沼化する可能性もあるからです。
「最悪の場合、1/4の権利を持つ姉から、その分の家賃を請求されることだって起こり得ます。あるいは、姉が所有権を第三者に売却してしまったり、あるいはさらにその下の子供たちが相続したりすることだって考えられます。そうなると相続不動産に思い入れがなくなり問題はいっそう複雑化してしまうことがあります。そうなってから手を打つより、少々割高であっても、今のうちに1/4の権利を買い取ることを私はおすすめしたいですね」
不動産が1つであれば、それを分けるには売却してお金に換えるしかありません。思い出たっぷりの住み慣れた家を手放すはめにならないよう、遺言状の作成など、今のうちにできるかぎりの対策を講じておくべきでしょう。
取材・執筆:友清 哲
1974年、神奈川県出身。フリーライター&編集者。1999年よりフリーランスで活動。雑誌、Webで精力的にインタビュー、執筆を行う。『日本クラフトビール紀行』(イースト新書Q)『一度は行きたい「戦争遺跡」』(PHP文庫)など著作も多数。
編集協力:有限会社ノオト