小説やマンガ、映画など、宇宙を舞台にした作品は数多くあります。地球以外で暮らす様子が描かれることもありますが、本当にそれを実現させるとしたら、一体どんな家が建てられるのでしょうか。今回は私たちにとって身近な存在である「月」を例に、JAXA(宇宙航空研究開発機構)研究員の星野健さん、若林幸子さん、金森洋史さんに聞いてみました。
●月面で家を建てられるエリアはわずか!
まず、月の環境をおさらいすると、月の重力は地球の6分の1。大気は薄く、ほぼ真空環境です。地球のように人間が呼吸できる環境ではありません。また、大気が薄いために寒暖の差が激しく、夜間はマイナス200度、日中は120度といった温度になる場所も。こうした環境下で建てられる家とは......?
「生存を前提に考えるなら必要な条件は2つ、『日当たり良好』と『地球向き』です。前者は、地球でいう北極と南極の位置が適しています。なぜなら、これらの極地には長期間に亘って太陽光が当たる場所が存在し、それによって生活に必要な太陽エネルギーを豊富に得られる可能性があるからです。極地以外は、昼間は太陽光が2週間連続して当たり熱くなり、その逆に夜は日照が無いことで極寒状態になります。月でもエネルギー源として活用できる太陽エネルギーを得るには、谷ではなく周囲より高い山であることが重要です。特に周囲より高い山の日当たりが良好ですが、居住性を考えると、山岳地帯でも比較的平らな場所が良いかもしれません。後者については、月の裏側では地球との直接通信を確保できないからです」(星野さん)
●月で私たちが暮らせるようになるには......?
月面で家の建設に適した土地はごくわずかとなると、まさにそこは一等地! そういった土地を確保したとして、さらに私たちが暮らせる環境を整えるにはどうしたらいいのでしょうか。
「実はまだ、どういった技術が月で使えるかは研究段階なのです。基本的には地上の建設技術を転用することを考えています。もし建設するとしても、人が月に行って長期の作業をするのはリスクが大きいため、ある程度はロボットを使って遠隔で自動建設の方法を取ることになるでしょう。また、地球から月へ物を運ぶと、1kg当たり1億円の費用がかかります。そのため、月にあるモノで自給自足が望ましいとしています。あくまで仮定の話になりますが、いま考えられている環境づくりは次のとおりです」(若林さん)
■エネルギー源
太陽エネルギーを利用する。太陽の光を電気に変える太陽光パネルは、極地ではほぼ鉛直に設置される。太陽光が水平に近い方向から当たるためである。
■水
月には太陽の光がまったく差し込まない「永久影」と呼ばれる場所がある。そこには氷が存在すると考えられ、そこから水を得ることを想定。
■酸素
月の鉱物は酸化物で、石の中の成分の4割が酸素。水素などで還元し、酸素を抽出する。
■食料
LED照明で葉物を水耕栽培するほか、将来的には魚の養殖を検討。家畜は育てるためのエネルギーを多く必要とするため、ハードルが高い。ちなみに、宇宙では生ごみも貴重な資源であり肥料にするなどして再利用し、それで植物や魚を育てることも。
■住居
宇宙から降り注ぐ放射線や隕石を防ぐことが最重要。人が過ごせる気圧を保つために形は球状が理想であるが、拡張性や利便性を考えると円筒形が良いかもしれない。建物の周囲を月の砂を高い温度で焼き固めたレンガなどで囲むことで、放射線や大きな温度差などから住居を守ることを想定。家同士は連結しておき、宇宙服を着なくても行き来ができるようになっている。
■交通手段
フィクションでは飛行物体が描かれがちだが、現実的には月面上を走る車両が中心となる。
■通信
人口衛星を利用した通信環境を構築。現段階でも月から数百Mbpsの速度は確保できる。NASA(アメリカ航空宇宙局)は2013年の実験で、月軌道から約600Mbpsのデータ通信速度を達成した。
「当然ながら、家を建てるなら地盤の強度も重要です。居住を始めた後に地盤が部分的に沈下するような場合には、地上でも使われているようなジャッキを利用した埋め立て地の建設方法を導入することも有効かもしれません。現在、JAXAでは2025年にNASAが主導する月の周りに宇宙ステーションを建設する計画に参加し、2030年には月面到達が目標とする計画を進めています。人が月で暮らせるようになるのはまだまだ先ですが、地上の技術と連携しつつ、日々研究を重ねています」(金森さん)
地球を離れ、月で暮らす未来。SFで描かれた想像上の世界は、実現に向けて少しずつ進歩していくのかもしれません。
取材・執筆:南澤悠佳
有限会社ノオト所属の編集者、ライター。得意分野はマネー、経済。子育てや不動産、会計など、企業のオウンドメディアを中心に担当する。Twitter ID:@haruharuka__
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