親亡き後、空き家となった実家を誰が維持・管理するか、実家を兄弟姉妹でどのように分けるかなど、さまざまな問題に直面します。家は相続とも密接な関わりがあるため、親族間での争いになるケースも少なくありません。
「"実家問題"を避けるためには、親が元気なうちから話し合っておくことが大切です。ただ、子どもたちが親のことを思って話しても、タイミングや話し方を間違えると、親との関係がこじれてしまう場合があります」
こう話してくれたのは、『実家の処分で困らないために 今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)の著者・高橋正典さん。では、高齢の親と「実家」について話し合う際、どうしたらいいのでしょう?
「実家を売るにしても活用するにしても、一番大切なのは親の幸せを最優先して考えることです。合理的に話を進めるのではなく、親の考えをじっくりと聞くことから始めましょう。また、親に相談する前に、家に限らず、介護やお金の問題など、さまざまなリスクについて、兄弟姉妹で話し合っておくことも大切です」(高橋さん 以下同)
実家問題を話しやすいタイミングは?
地元を離れて暮らしている人はもちろん、親と同居している人であっても、実家の今後などを親に相談するときは勇気がいるようです。どのようなタイミングで話を切り出せばいいのでしょうか?
「親と離れて住んでいる場合は、日頃から電話や会いに行く回数を増やしコミュニケーションを密にしていきます。そこから一歩踏み込んだ話をするのは、お彼岸やお盆、子ども世代にとっての祖父母の命日や法事など、親が"自分の親を思う時"がいいでしょう。『おじいちゃんが亡くなった時はどうだったの?』と話を切り出すと、親もその時の苦労を思い出しやすく、自分の子どもにはその苦労はさせたくないという思いから、先々のことを話しやすい雰囲気が生まれます」
実家の近所の方や親の友人・飲み仲間などの近況から話を広げていく方法もいいそうです。
「親に『〇〇さんは元気なの?』と話を振り、『〇〇はアパートを建てた』とか『最近息子が帰ってきた』という風に話が広がっていけば、親が自分自身のことや家のことをどのように考えているかも聞きやすくなります。気軽にお互いの将来の話ができるようになったら、少しずつ親の生活状況やどういった保険に入っているかなども聞き把握しておくようにします」
「親だからそうするのは当たり前」はNG。話し方次第でこじれることも!
話し方次第で親子関係がこじれることも多いといいますが、親と話をする際にはどのようなことに気をつければいいのでしょう。
「無理だとわかっていても、心の底では親は子どもに実家を継いでほしいと思っています。ですから『戻ってこられないか』という親の言葉に『無理に決まっているじゃないか!』と言ってしまったら、話はそこから進みません。『戻りたいけれど、仕事が見つからないだろうし......』と考え込む姿を見せるだけでも、冷静になって話し合えるでしょう。『親だから〇〇するのは当たり前』と決めつけた話し方も揉めやすいです。親のことを心配し最優先に考えているか、先々自分たちに降りかかるリスクを回避したいだけなのか、スタートが違うだけで話す内容や口調が変わってくることをよく認識して話しましょう」
大切なのは、子ども側からお願いする姿勢
高橋さんによれば、将来に誰も実家に戻る予定がなく、実家の維持・管理や相続税の支払いが難しい場合はありのままに話すのがいいとのこと。
「『今の生活がギリギリだから、親父にもしものことがあったらどうしようもない。今のうちから何か手を打っておけないかな』など、状況をありのままに話し親にお願いします。子どもが一歩下がって親にお願いすることがポイントです。子どもから困っていることを相談され『助けてほしい』と言われたら、親は真剣に向き合ってくれるでしょう。一方、相続に関わる問題を兄弟姉妹で解決できる場合は、あえて親には何も話さず現状のまま見守るというのも選択肢の一つです」
高齢になると、病気が急に悪化したり認知症の症状が急に進んだりということもあります。「あの時話しておけば、相談しておけば良かった......」と後悔しないように、親が元気なうちから話す機会を増やし、実家について相談していきましょう。
取材・執筆:川野ヒロミ
埼玉県出身。1998年よりイラストレーターとライターの2本立てでフリーランスで活動。大手企業のWebサイトの立ち上げなどにも関わる。モットーは「ヒト、コト、モノをわかりやすい言葉で伝える。
編集協力:有限会社ノオト