去る7月1日、国税庁が2018年分の「路線価」を発表した。路線価日本一は33年連続で東京都中央区銀座5丁目の「鳩居堂前」。1㎡あたり4432万円で、過去最高を更新したという。
一方で、今年春には国土交通省による「公示地価」が発表されており、こちらは「山野楽器」(銀座4丁目)が日本一。1㎡あたり5550万円で、やはり過去最高だった。
路線価と公示地価、どちらも土地の評価を示す指標だが、なぜ日本一の地点が異なるのだろうか? また、そもそもなぜ複数の指標が存在するのだろうか?
実際に地価公示などの調査を行う、不動産鑑定士の伊藤裕幸さん(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会の広報委員長)に伺った。
●「公示地価」「路線価」「基準地価」...それぞれの違いは?
土地評価の公的指標としては「公示地価」、「路線価」の他にも「基準地価」「固定資産税評価額」などがある。それぞれ管轄する省庁が異なり、調査する場所や目的にも違いがあると伊藤さん。
【公示地価】
「管轄は国土交通省。毎年1月1日時点の土地価格を評価するもので、主に一般の土地取引価格の指標などに使われます。都市計画区域やその他の『土地取引が相当程度見込まれる区域』について、全国3万弱の地点を対象としています」(伊藤さん、以下同)
【基準地価】
「管轄は都道府県。こちらは毎年7月1日時点の標準地価を判定しています。こちらも土地取引価格の指標として用いられ、公示地価では網羅しきれないエリアを補完する意味合いで行われます」
【路線価(相続税評価額)】
「管轄は国税庁です。毎年1月1日時点の、道路に面した宅地の1㎡あたりの評価額を定めるもので、公示地価の8割程度の価格になっています。相続税や贈与税の課税のために用いられます」
【固定資産税評価額】
「東京23区は東京都が、それ以外は各市町村が管轄しています。3年ごとに、基準年度の前年1月1日時点の評価額を定めるもので、公示地価の7割程度の価格になっています。固定資産税などの課税のために用いられます」
地価の指標は土地取引や課税のために用いられるが、その目的により根拠となる法律が違い、管轄も分かれている。調査する地点も異なるため、公示地価、路線価で「日本一」の地点が変わってくるようだ。
●調査は「不動産鑑定士」が担当
では、これらの価格はどのように決められているのだろうか?
「たとえば、公示地価は国交省の中に設けられた土地鑑定委員会が価格を決めています。国会を通じて公正に選出された7名によって組織される委員会なのですが、3万弱の地点全てを委員会のメンバーでチェックするのは不可能なので、調査は私たちのような不動産鑑定士がサポートするわけです」
5年前までは伊藤さん自身も公示地価の調査を担当していたという。収益還元法や取引事例比較法などといった鑑定評価の手法に基づき様々な分析を行い、委員会に資料を提出する重要な役割だ。
「その土地をあらためて造成するとしたらいくらかかるのか、周囲でどのような取引が行われているのか、人に貸したり事業をやったときにどれくらいの収益が見込めるのか。これら3つの観点で、それぞれの価格を算出していきます。土地鑑定委員会の手引書に則って行いますので、鑑定士によって評価がぶれることはありません」
なお、取引状況は直近のさまざまな事例を比較するが、そもそも土地の取引自体がほとんど行われていないエリアもある。地価に影響を与える事象やデータが全くない場合は範囲を広げ、当該地域と似た環境のエリアの取引状況を探るようだ。地価の根拠となるファクトをいかに見つけるかが重要なのだという。
●銀座の土地はなぜ高い?
ちなみに、地価は基本的に、取引が活発に行われるほど高騰する。たとえば住宅地でいうと、現在は戸建てが多い住宅街よりマンション立地の方が上昇率は高い。
「特に都心やターミナル駅の周辺などは、昨今の底堅いマンション需要を受けてデベロッパーが土地を買い集めていて、活発な取引が行われています。今後はますます利便性の高い中心部に取引が集中し、高いエリアと安いエリアの差が広がっていくものと思われます」
しかし例外もあり、なかでも特異なのが銀座というエリアだ。
「特に公示地価日本一の山野楽器がある通りなどでは、目立った土地の取引は行われていません。このエリアの土地は、なかなか権利者が手放しませんので。しかし、ひとたび市場に出れば、非常に高額な取引が行われる。というのも、外国人観光客の増加で、このあたりに商業施設を作れば着実に収益が見込めますから。また、やはり銀座は日本一のブランド価値を誇り、『銀座に店を出す』こと自体が大きなバリューになります。現に店舗単体では赤字でも、銀座に店を構えたい美容室やブティックなどは後を絶ちません」
そうした特殊な事情ゆえ、「山野楽器」や「鳩居堂前」は土地取引がなくても価格が上昇し続け、日本一に君臨し続けているというわけだ。
●家を売買する際の参考に、地価の指標を活用しよう
最後に、こうした地価の指標は個人が家を売買する際、土地の「適正価格」を求める上でも役立つという。
「公示地価などは地点が限定されていますが、路線価や固定資産税評価額はかなりきめ細かく直近の価格を知ることができます。路線価を8割で割り戻せば、それが標準的な価格になります」
公示地価や基準地価は国土交通省ウェブサイトの「標準地・基準地検索」から、路線価は国税庁ウェブサイトの「路線価図・評価倍率表」からそれぞれ閲覧することができる。家を売るときの値付けや、購入を検討する際の相場観を養う参考に、ぜひチェックしてみてはいかがだろうか?