パートナーが売却に反対......どう足並みをそろえたらいい?

不動産の売却は家庭の一大事ですが、「夫は売却に乗り気だけど妻が反対」というケースは少なくありません。夫婦がお互いの考えを尊重し、足並みをそろえてベストな選択肢を見つけるためには、どうしたらよいのでしょうか。『伝え方が9割』の著者・佐々木圭一さんに、パートナーと意見をすり合わせていく方法を教えてもらいました。

●「相手が考えていること」を想像する―それが歩み寄りの第一歩

「伝え方には技術がある」というのが佐々木さんの持論。技術だからこそ、そのノウハウを学べば誰でも身につけることができるはず。ただ、「思うように人をコントロールする技術ではない」と佐々木さんは強調します。

「不動産を売るというのは、とても大きな決断です。夫婦で時間をかけ、本当に売るべきかを話し合うことが必要です。妻が『売りたくない』と言うのであれば、その意見を一度受けとめてあげなければ。伝え方の技術の根本は愛情にあります。人を操る技術ではありません。相手の気持ちをどれだけ想像できるかが大事です。自分の思うように相手を動かそうとしても、決してうまくいかないことを知っていただければと思います」

その前提を踏まえ、佐々木さんは「チームワーク化」「相手の好きなこと」「選択の自由」「認められたい欲」という伝え方の技術を紹介してくれました。

■チームワーク化

人は「一緒に」と言われるとうれしくて、誘いに乗ってしまうことを使った技術。

■相手の好きなこと

好きなことをもとに伝えるので、相手をハッピーにしつつ、お願いを聞いてもらえる技術。

■選択の自由

どちらを選ばれてもいい選択肢を出して「AとBのどちらがいい?」と聞く技術。

■認められたい欲

人は期待されると、その通りの成果を出したくなることを使った技術。

夫婦という近しい関係だけに、つい思ったことをぶつけ合い、相手を説きふせようとしてしまいがち。しかし、人生の選択において必要なのは「説得」ではなく「納得」です。親しい間柄だからこそ、あえて意識して「妻(夫)はどう考えているのかな」と想像することが、意見の一致に近づく第一歩になるのです。

さっそく、不動産売却時に発生するいくつかのケースをもとに「ベストな伝え方」を考えていきましょう。

●ケース1
相手視点に立つ問いかけが、パートナーの心に響く

リストラにあってしまい、住宅ローンを払うのが難しくなってしまった。自宅を売らなきゃいけないのに......。妻は切羽詰まっていることを理解してくれず「子どもの習いごと、学校がある」「引っ越しの時期が気に入らない」といった理由で首を縦に振ってくれない。

<望ましい伝え方案>
・「引越しをするなら、春と秋、どちらがいい? 気候もちょうどいいし、引越し作業もしやすいと思うんだ」(選択の自由、相手の好きなこと)
・「○○(子の名前)にとって、もっと住みやすい場所に引っ越そう。学校や習いごとも、一緒に探してみようよ」(相手の好きなこと、チームワーク化)

「家を売らなきゃいけないのは当たり前! 何で分かってくれないのか!?」という夫の心の叫びが聞こえてきそうな事例です。

「男性は理詰めで説得しがちですが、それは決して得策ではありません。相手の考えを想像して、あくまで相手目線で伝えてあげてください」(佐々木さん)。

求めることをただストレートに伝えるのではなく、「相手の好きなこと」にまずは思いを馳せて見てください。パートナーが考えていることを想像し、相手目線で伝えることを肝に銘じましょう。

●ケース2
ロジック先行では、真意が伝わらないことも

新住居を購入済みなのに、前の住居がまだ売却できていない。このままでは住宅ローンの二重払いになってしまうのに......妻は「売却価格が気に入らない」という理由を挙げ、なかなか前向きになってくれない。

<望ましい伝え方案>
・「海外旅行と国内旅行だったら、どっちがいい? ▲▲(妻の名前)はいつも本当に頑張ってくれているから、いろんなところに連れていってあげたい。二重でローンを払い続けるなら、そっちにお金を回したいんだよ」(選択の自由、認められたい欲、相手の好きなこと)

・「▲▲(妻の名前)の気持ちは分かる。だけど、○○(子の名前)もこれからお金がかかっていくし、二重で払う分を○○(子の名前)のために貯金してやったほうがいいと思うんだ」(相手の好きなこと)

住宅ローンの二重払いで家計を圧迫していく。それは確かに避けたいこと。

「男性は、つい『二重払いになってもったいないじゃないか!』と、思ったままを話してしまいがち。だけど、妻は前の家に愛着があるでしょうし、納得しにくいかもしれません」(佐々木さん)。

やはりここでも、ロジックが先行しては真意が伝わらないこともあります。相手の気持ちに寄り添って考えてみることが大切なのは言うまでもありません。

●ケース3
自分だけではなく、相手にとってのメリットも考える

「犬を飼いたいから戸建に引っ越したい」「退職したから田舎暮らしをしたい」「ペンションを始めたい」「蕎麦屋を開きたい」と売却を考える夫に対し、妻は「ペットを飼っても世話するのは私じゃないの」「田舎暮らしなんて現実を見て」と、取り付く島もない。

<望ましい伝え方案>
・「▲▲(妻の名前)と一緒に新しい生活を始めたいんだ。空気がきれいな場所で、二人でのんびり過ごせたら、幸せだろうなと思って」(チームワーク化)

夢見がちな理由で夫は家を売却したい夫と、現実的で取り合ってくれない妻。これも、実際の不動産売却においては頻出するパターンのようです。佐々木さんは、「夢も分かりますが、妻の人生もあります。性急な決断ではなく、きちんと話し合うことが肝心」と釘を刺しました。

「老後は田舎で過ごしたいんだ! だから引っ越そう!」という提案だと「バカなこと言わないで!」と思われても仕方がありません。「伝え方で大事なのは、無理に押しつけるのではなく、相手がやりたくなるように伝えること」(佐々木氏)。「一緒に」というキーワードを織り交ぜてチームワーク感を出し、「新しい生活」「二人でのんびり」と、相手にとって魅力的に思ってもらえそうな言葉も盛り込みました。相手がメリットを想像できたら、検討してもらえる可能性が上がるのです。

自分の意見を突き通し、相手を説得するのではなく、気持ちを共有すること。人生の一大プロジェクトに臨むため、相手の気持ちを尊重し、足並みをそろえて進んでいきましょう。

取材・文:佐々木正孝

ライター/編集者。有限会社キッズファクトリー代表。情報誌、ムック、Webを中心として、フード、トレンド、IT、ガジェットに関する記事を執筆している。

編集協力:有限会社ノオト

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取材協力

佐々木圭一さん

コピーライター/作詞家/上智大学非常勤講師
上智大学大学院を卒業後、博報堂を経て株式会社ウゴカスを設立。伝え方には技術があることに気付き、誰でも身につけられるよう体系化。そのノウハウを紹介した著書『伝え方が9割』(ダイヤモンド社)は続編もあわせてシリーズ累計89万部を突破。「日本のコミュニケーションのベースアップ」を目指して活動している。
▼伝え方講座
https://www.ugokasu.co.jp/school/