不動産や土地の売買は、不動産会社に仲介を依頼するのが一般的です。でも、なかには個人間で売買するケースもあるようで......。そんなに簡単にできるものなの? そのメリットやデメリットは? 不動産の個人間売買に関する依頼を手がけてきた武蔵野不動産相談室代表の畑中学さんに聞きました。
●個人間売買は仲介手数料がかからないが......
「個人間売買の問い合わせは、平均して月5~6件あります。親戚同士や友人同士、離婚した元夫婦というように、見知った相手との間で行われることがほとんどです。たとえ第3者間で行われる場合でも、マンションの住人同士というように、近しいコミュニティで行われます。完全に他人というケースは、ほぼないといっていいでしょう」(畑中さん 以下同)
個人間で不動産や土地の売買をするメリットは何でしょうか?
「正直な話、メリットは仲介手数料がかからないことだけですね(苦笑)。たとえば、友人同士でマンションを売買する場合、売買価格が2,000万円だとしたら仲介手数料は売主・買主合わせて約132万円です。でも、個人間で行なえば、その費用は発生しません。目安として、100万円以上の仲介手数料がかかるなら個人間売買を検討してもいいと思いますが、それ未満の場合は不動産会社に依頼したほうが煩雑な手続きもなく、はるかに楽でしょう。また、たとえ個人間売買でやりとりしたいと思っても、買主さまが住宅ローンを組みたいのなら、不動産会社を通さないと融資が受けられない場合もあります」
不動産の売買を個人で行うとしたら、主なステップは次の通りです。
1. 不動産事前調査
□売買価格の検討
□想定税額の算出、節税対策
など
2. 売買契約の諸準備
□リフォーム内容の確定
□境界測量の実施や、境界標の確認(戸建て)
□管理規約の確認(マンション)
□契約書の作成
□手付金の支払い
など
3. 個人間売買契約
□抵当権抹消準備
□売買条件の諸整理
など
4. 引き渡し
□残代金があれば、その支払い
●数年後にリスクが顕在化しても、救済措置がないのが現状
不動産売買のステップを抜け漏れなく行うのは、なかなかハードルが高そうな印象が......。もし個人間で不動産や土地の売買を行うとしたら、どのような点に気を付けたらいいのでしょうか?
「個人間のやりとりで注意したいのは、売買時にはわからなかったリスクが数年後に顕在化することです。たとえば、土地を買ったものの希望する家が建てられない場合、古いアパート1棟を買ってのちに建て替えようとしたら、法改正で現在の敷地面積では建て直しができない場合などがありす。これらのリスクは、売買後に気付いてもどうしようもないのです」
やはり不動産は専門性が高く、なかなか素人が気づかない穴があるってことですね。あと、当事者同士が話し合って取り決めるとはいえ、金額が大きな買い物ですから、人間関係に悪影響を与えることもありそうな気がします。
「そうですね。最初は個人間で進めようとしていた人が私のもとに相談にくる場合、その多くが金額交渉です。友人同士だと、希望の額があってもそれをなかなか言い出せないこともありますから。大きな金額が動くやりとりだけに、進め方によっては人間関係が破たんするケースも容易に想像できますよね。そうした可能性があることも、念頭に置いておきましょう」
不動産や土地の個人間売買は、仲介手数料がかからないのはたしかに大きな魅力かもしれません。しかし同時に、プロの目が届かいことによるリスクも抱える可能性があります。それらを天秤にかけつつ、慎重にその善し悪しを判断した方が良さそうですね。
※1 不特定多数の人に反復継続して不動産売買をすることは営利目的とみなされ、宅地建物取引業免許が必要になります。
取材・執筆:南澤悠佳
有限会社ノオト所属の編集者、ライター。得意分野はマネー、経済。子育てや不動産、会計など、企業のオウンドメディアを中心に担当する。Twitter ID:@haruharuka__
記事編集:有限会社ノオト