親が認知症に!親が所有するマンションを売却するには?

認知症の症状が進んだ親が施設に入居するにあたって、親のマンションを売却して入居資金や施設への支払いにあてたいと考える方は多いようです。売却するためには、どのような手続きが必要になるのでしょうか? 馬場・澤田法律事務所の弁護士、長森亨さんにお聞きしました。

「親に判断能力(注1)がありマンションの売却を望んでいて、親から子どもへの委任状など必要な書類がそろえば、子どもが親の代理人として売買契約を結ぶことができます(注2)。しかし、親の認知症が進み判断能力を欠いている状態になると、子どもが親の代理人として売買契約を結ぶといったこともできません」(長森さん 以下同)

では、どうするのがいいのでしょう?

「まずは、『成年後見制度』を利用するために家庭裁判所に申し立てを行い、マンションの所有者である親に代わり、財産を管理し、さまざまな契約などが行える『成年後見人』などを選んでもらう必要があります(注3)。ただし、成年後見人などの責任は親が亡くなるまで続くので、マンションを売却すれば終わりというものではありません」

注1:残代金決済時には司法書士が立会います。司法書士には、本人の売却の意思を確認する義務があります。
注2:判断能力:売買や贈与等をする際に、その行為の意味や結果を理解して、その行為をするかどうかを判断するのに必要な精神能力。
注3:成年後見制度には、判断能力の度合いによって「成年後見人」「保佐人」「補助人」の3種類があります。今回は、判断がまったくできない状態を仮定し、「成年後見人」の場合を解説します。

●成年後見人はどのように決まる? 手続きの流れと注意点

長森さんによれば、成年後見人は次のような流れで決まるとのこと(ここからは、成年後見人に財産を管理してもらう人を「本人」と表記していきます)。

  1. 本人が住民登録している場所を管轄する家庭裁判所から申立書類を入手する。
  2. 申し立てに必要な書類(戸籍謄本など)を集め、書式に沿って申立書類を作成する。
  3. 申立書類を家庭裁判所に提出する。
  4. 審理:家庭裁判所で書類の審査、申立人の面接、親族への照会などが行われる。
  5. 審判:裁判官が後見人を誰にするかを判断する。
  6. 審判が確定し、成年後見人が決まる。

参考:東京家庭裁判所 成年後見申立の手引きより
※申し立てができる人は、本人、配偶者、4親等内の親族、成年後見人等、任意後見人、成年後見監督人等、市区町村長、検察官。
※申し立てから審判までの期間は2〜3カ月。
※申し立てに必要な費用は印紙など約8,000円。鑑定を行う場合は別途費用(約10万円程度)が必要。

「本人が埼玉県内の施設に入っていても住民票が都内にあれば、東京家庭裁判所に申し立てます。申立書類の作成は、弁護士や司法書士に依頼することもできますが、最近は、家庭裁判所のウェブサイトにある『申立ての手引き』などを参考に、書類をそろえて親族が申し立てをするケースも増えています。申し立ての際には、医師の診断書や親族の同意書なども提出するのですが、手続きを進める中で専門医による本人の鑑定や親族への意向調査を行う場合もあり、審判までに時間がかかることもあります」

親族が成年後見人になれない場合もあるのでしょうか?

「成年後見人の候補者を決めて申し立てをしますが、家庭裁判所の判断で候補者が選定されないこともあります。未成年者、成年後見人などを解任された人、破産者で復権していない人、本人に対して訴訟をしたことがある人、その配偶者・親子、行方不明である人は、成年後見人にはなれません。また、親族の中に成年後見人の申立てに反対している人がいるなど、親族間の対立がある場合、管理する預貯金額が多額な場合、管理する財産に不動産など複雑なものが多いときなども同様です。こういった場合は、弁護士や司法書士といった専門職が成年後見人に選ばれることが多いです」

なお、親族が成年後見人になったものの、事務面などに不安があるときには、家庭裁判所が専門職の人を「成年後見監督人」に選び、成年後見人をサポートしていくこともあるのだとか。

●売却できない場合もある!? 親のマンションの売却での注意点

成年後見人が決まった=すぐに物件の売却ができるわけではないのだとか。具体的にどのような手続きが必要なのでしょう?

「家庭裁判所に『居住用不動産処分の許可の申立て』をする必要があります。成年後見人には本人のための財産管理行為であれば広い裁量がありますが、自宅不動産の売却については、必ず家庭裁判所の許可を得なければならないのです。売却許可が下りなければ、所有権移転登記ができないので売却はできないのです」

売却理由によっては、家庭裁判所で売却許可が下りない場合もあると聞きますが......。

「家庭裁判所では、売却の必要性、本人の生活状況、本人の意向を考慮しているか、また、売却条件が著しく安くないか、不利な条件ではないか、本人の関係者(本人が亡くなったときに、その不動産を相続する法定相続人)が売却することに対して異議を述べていないかなどの事情を総合して判断しているようです。たとえば、本人の預金残高が十分にあり不動産を売却する必要がない場合には許可されないこともあり得ます。売却については、申し立てをする前に家庭裁判所に相談をして、指示を受けながら手続きを進める方が多いようです」

売却した金額なども家庭裁判所に報告するのでしょうか?

「成年後見人は、1年に1回家庭裁判所に本人の財産状況を報告する義務があります。ですから、不動産の売却などで財産の内容が変わったときには、売却をした得た金額や施設への支払いを収支報告書に記載し、何がどのように変わったのか判るようにしておく必要があります」

「家庭裁判所へ申し立てる」と聞くだけでハードルが高く感じますが、最近は、家庭裁判所のウェブサイトに手引き書や説明動画などが用意されているので、まずはそれらを読んだり見たりして成年後見人制度について知ることからはじめてみましょう。手続きを進めるにあたって不安があるときには、弁護士や司法書士などへの相談するのもおすすめです。

取材・執筆:川野ヒロミ
埼玉県出身。1998年よりイラストレーターとライターの2本立てでフリーランスで活動。大手企業のWebサイトの立ち上げなどにも関わる。モットーは「ヒト、コト、モノをわかりやすい言葉で伝える。

編集協力:有限会社ノオト

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取材協力

長森 亨(ながもり・とおる)弁護士

企業法務、一般民事事件のほか、分譲マンションの管理や賃貸物件をめぐるトラブルの法律的解決にも取り組む。日弁連民事裁判手続に関する委員会、同家事法制委員会委員。主な著書に『賃貸建物のトラブルQ&A』『分譲マンションの紛争Q&A』(いずれも中央経済社・共著)。
▼馬場・澤田法律事務所
http://www.babasawada.com/