住宅の売買で大きなポイントになるのが、物件周辺の環境です。この住環境は「用途地域」によって大きく左右されることをご存じでしょうか。この用途地域の規定により、立地できる建物、商業施設などが異なります。つまり、街並みだけではなく生活の利便性もガラリと変わってくるのです。一体、どんなことを押さえておくべきでしょうか。不動産売買の法律・制度に詳しい平野雅之さんに聞きました。
●生活環境を左右する12の用途地域をチェック!
「用途地域は都市計画法によって12種類が定められています。そのねらいは『さまざまな用途の建築物が無秩序に混在することを防ぎ、地域ごとに合理的な立地規制、用途規制をしようとする』こと。住宅や商業施設、工場などの建物の用途を定めた12種類について、簡単に見ていきましょう」(平野さん 以下同)
第一種低層住居専用地域
2階程度の戸建て住宅、3階建て程度の低層マンションのほか、小規模な兼用住宅(店舗・事務所など)、小中学校など 、老人ホーム、公共施設などが建てられる地域。住宅地の環境として最も優れていますが、一定規模以上の店舗や病院などが建てられないため、小規模な住宅兼用店舗を除いてコンビニの立地も認められません。
第二種低層住居専用地域
第一種低層住居専用地域に建てられる用途に加え、小規模の店舗や飲食店なども認められる地域。第一種低層住居専用地域に比べ 利便性は高まります。
第一種中高層住居専用地域
低層住居専用地域に建てられる用途に加えて中規模の病院や大学、一定の店舗なども認められます。容積率などの制限も緩くなるため、都市部では中高層マンションが多く建てられる地域です。
第二種中高層住居専用地域
第一種中高層住居専用地域に建てられる用途に加え、1,500㎡まで(2階以下)の一定の店舗や事務所などが認められるため、スーパーも建てられる地域。住環境の水準は維持しつつ、日常生活の利便性はぐっと高まります。
第一種住居地域
中規模のスーパーやホテル、運動施設、小規模な工場なども建てられる地域。全国では指定面積が最も広く、大規模なマンションが数多く建てられています。
第二種住居地域
住居地域でありながら、パチンコ店やカラオケボックスなどの立地も認められる地域。住宅として検討する場合は周辺環境のチェックが重要になりそうです。
準住居地域
住居系の用途地域ではもっとも許容範囲が広くなります。第二種住居地域の用途に加えて、営業用倉庫、小規模な自動車修理工場・劇場・映画館などもOK。
近隣商業地域
ほとんどの商業施設、中規模の工場などの立地も認められる地域。日常生活の利便性は高まりますが、環境としてはややにぎやかになるでしょう。
商業地域
市街地の中心部や主要駅周辺などに指定され、多くのビルが立ち並ぶ地域。ほとんどの用途の建築物が建てられます。地価が高くなるため、20階建て以上の超高層マンションも数多く建設されています。
準工業地域
商業地域と並んで用途の幅が広い地域。一定の風俗営業店と工場などを除き、ほとんどの用途の建築物が建てられます。マンションの供給も比較的多くなりますが、周辺環境の確認 は平日・休日で複数回行いたいところです。
工業地域
工場に加えて住宅の立地も認められます。工場跡地の再開発などで大規模マンション、戸建住宅が分譲されることも。周辺環境のチェックが欠かせません。
工業専用地域
用途地域の中で唯一住宅を建てられない地域です。
「用途地域については内容を細かく把握する必要はありませんが、どの用途地域が指定されているのかで、低層の一戸建てが多い、マンションが多い、商店や飲食店が多い、工場が多い......など、街の特色が大きく左右されます。住宅の購入や売却、または新しく建てようとする方なら、『用途地域によって建てられるものが違うこと』『用途地域が住環境を左右すること』は理解しておきましょう」
ちなみに、2018年4月からは「田園住居地域」が新設され、全部で13種類になります。農業の利便の増進を図りつつ、低層住宅の良好な環境を保護す るのが目的で、平野さんによれば「一般的な市街地の 住宅にはあまり関係はない」そうです。
●自治体に問い合わせて、ターゲットエリアの用途地域を把握
では、どうやって用途地域を調べたら良いのでしょうか?
「自治体に問い合わせ、物件の住所を伝えると電話でも教えてくれます。都市計画課などの担当部署に当たってみてください。できれば都市計画図を実際に確認しておきたいものです。自治体の担当窓口のほか、地域の図書館などでも閲覧できる場合があり ます。最近はウェブ上で公開している自治体も増えてきていますよ」
用途地域から街並み、生活環境の状況をある程度把握できることがわかりました。ただ、低層住居専用地域に低層戸建てだけが並んでいるわけではなく、同じ用途地域内でも決して画一的ではないようです。
「都市部では用途地域が複雑に入り組んでいて、第一種低層住居専用地域の道路を挟んだ向かい側が商業地域になっているようなケースも実際にあります。現地に足を運び、実際の環境を確認することが欠かせません」
最寄り駅、施設へのアクセスといった要素から物件のポテンシャルを推し量ることができます。そこで無視できないのが用途地域。売買、新築、投資を考える方は基礎知識として押さえておきたいところです。
取材・文:佐々木正孝
ライター/編集者。有限会社キッズファクトリー代表。情報誌、ムック、Webを中心として、フード、トレンド、IT、ガジェットに関する記事を執筆している。
編集協力:有限会社ノオト