不動産の価格には、プロの客観的な評価によって決まる「査定価格」と、売主・買主の価格交渉を経て決められる実際の売買価格である「成約価格」があります。売主が不動産を査定価格よりも高く売るためのポイントはどこにあるのでしょうか。
多くの売買契約をまとめてきたソニー不動産売却コンサルティング事業部の小山有誉さんに、査定価格と成約価格について聞いてみました。
査定価格はどう算出する?
「私たちの感覚では、この価格で市場に出せば、80%以上の確率で売れる価格が『査定価格』です。査定価格の算出方法には、『取引事例比較法』『積算法』『収益還元法』の3つがあります」(小山さん 以下同)
取引事例比較法
周辺の過去の取引事例と比較して評価する方法。
まず、査定する不動産の「事例物件」(周辺にあって条件が類似している不動産で、直近の1年以内に取引されたもの)をセレクト。次に、交通の便などの利便性、周辺環境、築年数、日当たり、マンションなら分譲会社の信用度、管理形態、改装などの評価項目に評点をつけます。そして、最終的に「事例物件」の坪単価と査定不動産の坪単価、評点結果などに鑑みて査定価格を算出します。
積算法
土地と建物を現在の価値で個別に評価し、両方を合算して評価する方法。
土地の価値の評価は路線価、公示価格をベースに算出します。建物の価値の評価は、再度新築した場合の価格を前提にして、その価格に残価率(たとえば、木造戸建てなら法定耐用年数が22年なので、22年を越えると残価率0%になります)を掛け合わせて査定価格を算出します。
収益還元法
投資用不動産の評価方法。賃貸の家賃と期待する利回りから査定価格を算出します。
不動産仲介会社が一般的に用いるのが「取引事例比較法」です。直近の成約事例、客観的な評点によって算出するため、各社で大きな違いが出ることはありません。マンションと土地は「取引事例比較法」で、戸建物件は「取引事例比較法」と「積算法」を組み合わせる場合が多いとされています。
「取引事例比較法による査定価格は過去の成約事例に基づきますから、ほぼ確実に売却できる価格ラインが分かります。私たちは、査定価格を"成約率80%"の価格と考え、そこからどの程度上積みして成約できるかを考えます。その上で、お客さまと相談しながら売り出し価格を決めていくのです」
競合物件が安価な場合は、あえて"待ち"を選択することも
売主にとっては、査定価格より上積みした価格で成約できるのが理想的です。では、売り出し価格を高く設定できる、あるいは、査定価格より高く売れるのはどのような場合なのでしょうか。
「市場の動向などにもよりますが、やはり、その物件の『希少性』によるところが大きいでしょう。周辺に競合物件が少ないこと、大規模マンションであれば似たような広さの物件の売り出しがないことが成約価格のアップにつながります。1000戸以上の大型マンションでの経験ですが、売り出しが多く、競合する物件が安く出ていて、なおかつ飽和気味の時がありました。あえて、競合が市場からなくなってからの売り出しをアドバイスし、売り出しのタイミングを考えて成功したことがありました。『角部屋である』『ルーフバルコニーがある』などの付加価値も大きなプラス要素になります。これらの付加価値のある物件については、同じ棟内で住み替えを検討していたり、分譲賃貸から購入を考えていたりする人もいるので、人気が高く、成約価格がアップしやすいといえます」
また、ソニー不動産のエージェントは売主と二人三脚で売却までのロードマップを作り、『戦略』を立てて一緒に考えていくのだとか。
「家具・お荷物が多いお宅の場合、内見したお客さまから『部屋が狭く感じられた』とコメントを寄せられたことがありました。その際はトランクルームを手配し、売主さまと一緒にレンタカーで荷物を運び、すっきりしたお部屋を演出したことも。クロス張替えや水まわりのハウスクリーニングを進めることで、生活感のある汚れをなくし、買主からの評価を上げていくこともできるでしょう。こうして、マンションのモデルルームのような販売図面に活かせる写真をいかにして撮るかもアドバイスしたりして、内見数の増加につなげる努力を重ね、成約価格のアップを狙っていきます」
売主とエージェントが足並みをそろえ、出来ることをやり切った上で売却をプランニングすることが成約価格のアップにつながるといえそうです。
取材・執筆:佐々木正孝
ライター/編集者。有限会社キッズファクトリー代表。情報誌、ムック、Webを中心として、フード、トレンド、IT、ガジェットに関する記事を執筆している。
編集協力:有限会社ノオト