2017年に民法の改正案(以下「改正民法」)が成立し、2020年4月1日からは「瑕疵担保責任」の概念がなくなり、新たに「契約不適合責任」の概念が追加されます。一体どのような「責任」が問われることになったのでしょうか。不動産取引契約に詳しいソニー不動産の岡田恭市郎さんに、改正民法のポイント、「契約不適合責任」を巡る注意点を教えてもらいました。
<参考記事>
不動産売却のトラブルを防ぐ「瑕疵担保責任」って何?
ところが、2017年に民法の改正案(以下「改正民法」)が成立し、2020年4月1日からは「瑕疵担保責任」の概念がなくなり、新たに「契約不適合責任」の概念が追加されます。一体どのような「責任」が問われることになったのでしょうか。不動産取引契約に詳しいソニー不動産の岡田恭市郎さんに、改正民法のポイント、「契約不適合責任」を巡る注意点を教えてもらいました。
●瑕疵担保責任から契約不適合責任へ――概念がガラリと変わる
瑕疵担保責任から契約不適合責任へ。これは、単純に名前が変わっただけなのでしょうか?
「単に用語や表現が変わったということではないんですよ。概念がガラリと変わりました。『瑕疵』って、ぱっと聞いてもあまり意味がピンときませんよね。それは前の民法が1896年という、実に120年以上前に制定されたものだからです。それが今回、より現代に即したかたちに改正されたわけです。新たな概念は用語としては多少わかりやすくなりましたね。契約不適合、つまり契約の内容に適合しない場合に担保する責任、ということですから。ただ、初めて直面する私たちにも戸惑いがあるのは確かです」(岡田さん 以下同)
そもそも、不動産取引における瑕疵担保責任とは、物件に隠れた瑕疵があった場合、買主 は売主に対して損害賠償請求、契約の解除などができるというもの。瑕疵とは欠陥、キズの意味で、現在の民法では、具体的に何が瑕疵かまでは規定されていません。
そこで、不動産取引の契約書では特約をつけ、瑕疵を雨漏り・シロアリの被害・躯体木部の腐食・給排水管の故障と規定しています。つまり、雨漏りなどがあったら、その買主の被害に関して、売主が負う責任が瑕疵担保責任なのです。
一方、改正民法では「契約の内容に適合しないもの(不動産)」を買主に引き渡した場合、その責任を売主が負うことになります。それが契約不適合責任なのです。つまり、「契約の内容に適合しているかどうか」が焦点になります。
「『瑕疵』の具体的な内容が何かが現民法に規定されていないように、『契約の内容の具体例』も改正民法には規定されていません。民法の下には宅建業法があり、民法で実際の取引にそぐわないところを、不動産取引に定義しています。さらに、現場では不動産契約書において特約をつけ、瑕疵の内容を雨漏りなどの具体的な4つに絞り込んでいます。こうして、取引の現場が現実的に進められるようになっているのです。これは民法改正後も同様であると思います」
たとえば、どのような項目が「契約不適合」になりそうでしょうか?
「その点については、今後、不動産業界を挙げて、実際の不動産取引における具体的ガイドライン、契約書やその他の付随する書類のフォーマットなどについて話し合いが進められていくのではないでしょうか」
●契約不適合責任への変更で押さえておくべき2つのポイント
さらに押さえておきたいのが、契約不適合責任への変更で「行使の手段」「行使の期間」の2点が大きく変わるということ。
(1)「行使の手段」
現在の民法において、瑕疵があった場合において、買主の救済方法として、「契約の解除」「損害賠償」が新たに法定されました。改正民法では、新たに「追完請求(改正民法第562条第1項)」「代金減額請求(改正民法第563条1項、2項)」が新たに法定されます。
※現在の民法においても、法定はされていないものの、瑕疵が存在したときの追完請求は当然に認められています。
「追完請求とは、契約通りのものを請求すること。具体的には交換や代替え物の用意や補修ですが、不動産は交換や代替えなどはできませんから、『補修』が該当するでしょう。代金減額請求と不適合の程度に応じて値引きをしてもらえる権利のことです」
となると、買主の立場がより強化されたということでしょうか?
「強化ではなく柔軟になった、といえます。実は、損害賠償の範囲も変わり、改正後は売主さまの責任に帰することができない事由により損害が発生した場合は、『損害賠償責任を負わない』となっています(改正民法564条、415条1項ただし書))。瑕疵担保責任では、過失がなくても売主が責任を負っていました。この点は、売主さまにとって安心要素が増えたといえそうです」
(2)行使可能な期間の変更
瑕疵担保責任にもとづく損害賠償請求では「瑕疵があることを知った時から1年以内に請求」が条件でしたが、契約不適合責任では、「不適合を知った時から1年以内に通知」になります(改正民法566条)。
「こちらも契約書における特約では、責任を問えるのは『引き渡しから3カ月(個人の場合。法人は1年、宅建業者は2年)以内と区切りがあります。改正民法の下でも、実際の取引においては同様の適用期間が現実的に定められていくでしょう」
●トラブルを防ぐには、売主と買主のコミュニケーションが必須
契約解除や損害賠償等の買主による権利行使の手段や、その権利行使の期間に変動があるなど、売主・買主双方が押さえておくべき改正ポイントは少なくありません。
「瑕疵担保責任の場合、瑕疵を"見える化"して売主さまと買主さまが共有しておくことがトラブルを防ぐ有力な打ち手になりました。それは契約不適合責任の場合も同じです。売主さまは雨漏りなどの重要事項の詳細を買主さまへしっかりと告知し、買主さまも購入の目的等を明確に売主さま側に伝えて、契約書等の書類で明文化しておく必要が生じてくると思われます」
売主・買主が共に「物件の詳細」「購入目的」などを透明化することで、明解な取引へ。今回の改正で、不動産取引はよりクリアで分かりやすいものになっていきそうです。
取材・文:佐々木正孝
ライター/編集者。有限会社キッズファクトリー代表。情報誌、ムック、Webを中心として、フード、トレンド、IT、ガジェットに関する記事を執筆している。
編集協力:有限会社ノオト