不動産取引では、売主と買主をつなぐ仲介会社が重要な役割を果たしています。しかし、その仲介会社の取引には「片手仲介」「両手仲介」という2つのスタイルがあります。この2つにはどのような差があるのでしょうか。
ソニー不動産 売却コンサルティング事業部の小山有誉さんに、「片手仲介」「両手仲介」のポイントを聞きました。
「まずは『両手仲介』からご説明しましょう。これは、一つの仲介会社が不動産の売主さまと買主さまを両方担当すること。これが日本の法律では認められていて、この場合、仲介会社は売主さま・買主さまの双方から仲介手数料をもらえるシステムになっています。一方、売主さま・買主さまそれぞれに担当者を置くシステムが『片手仲介』。私たちソニー不動産の売却エージェントは売主さまだけを担当する『片手仲介』です」(小山さん 以下同)
●両手仲介・片手仲介の違いにクローズアップ
買主の希望予算に合わせるために売主が値下げを余儀なくされたり、またはほかの仲介会社には情報を渡さずに自社で両手仲介をねらう「囲い込み」が起こったり。両手仲介ではさまざまな懸念が指摘されてきました。
小山さんは、その状況について裁判になぞらえて考えるとわかりやすいといいます。刑をできるだけ軽くしようとする弁護士と、罪に見合った刑罰を課そうという検察。両社の立場は、利益が相反している関係で、一人の人物が弁護・検察を兼ねることはあり得ません。
不動産売買でもこれと同じ関係性が発生する場合があります。裁判で双方の弁護を行うことは双方代理といって法律で禁止されているのに対し、不動産仲介の場合は双方を担当することは法律で禁止されてはいません。が、多くの売主はできるだけ早く「高く」売りたい。買主はできるだけいい物件を「安く」買いたい。売主と買主の利益が相反している以上、両手仲介ではどちらかにメリットが偏ってしまうリスクは否定できません。
「ここで強調しておきたいのですが、両手仲介のスタイル自体が悪いということではありません。お客さまの希望に合った物件を探しているうちに、結果として両手仲介により話がまとまることもあります。ただ、取引において売主さまの情報が囲いこまれてしまうリスクが否定できないだけなのです。たとえば、販売図面の資料を作成し、できるだけ数多くの不動産ポータルサイトなどへ広告掲載を目指し、物件の情報をくまなく周知していくといった活動により、売買に関する諸情報がクリアな状態で、お客さまにとって最適な方法であれば、両手仲介でも片手仲介でも構わないのです」。
●フラットで透明性の高い不動産取引に向けて
では、片手仲介にデメリットはないのでしょうか? 小山さんに質問したところ、「売主さまの立場ではデメリットは思いつかない」とのこと。先述した通り、片手仲介は両手仲介と比べて不動産仲介会社にとっては「手数料半減」がネガティブファクターになるだけ。消費者のデメリットは皆無だという。実際、アメリカでは両手仲介を法律で禁じている州もあるそう。消費者利益を守るために、取引の公平性・透明性を保つ仕組みが徹底しているようです。では、日本では? 今後はどのような不動産取引が主流になっていくのでしょうか。
「私たちのように、売主さま・買主さまどちらかの立場に立った仲介会社が見られるようになりました。不動産業界でも、徐々に変化が見られていくのは確かだと思います。その潮流の一つとして、ホームインスペクション、建物診断の活用が挙げられます。中古住宅を適正に診断し、インスペクションの結果を出すことで購入の判断材料、売買トラブルの未然防止などの効果が期待できます。
中古住宅の流通がさかんなアメリカでは、ホームインスペクション、建物診断が当然のように行われ、スムーズで安心な取引、契約を担保しています。日本でも、市場の活性化に向けて各仲介会社でホームインスペクションを取り入れる動きが活発です。これは中古住宅売買の透明化、公正化につながっていくでしょう」
ホームインスペクションのような動きも含め、売却エージェント・購入エージェントが、売主・買主にそれぞれ寄り添い、最大限の利益を目指して活動していく。中古住宅市場がますます活発化していく中、透明性・公平性の高い取引として、片手仲介が今後注目を集めるかもしれません。
取材・文:佐々木正孝
ライター/編集者。有限会社キッズファクトリー代表。情報誌、ムック、Webを中心として、フード、トレンド、IT、ガジェットに関する記事を執筆している。
編集協力:有限会社ノオト