分譲マンションの購入後、毎月支払うお金といえば、住宅ローン、管理費、そして、修繕積立金があります。なかでも修繕積立金については、管理費と一緒に引き落としになるせいか、その多寡(適正な設定金額)をあまり意識しない人も少なくないようです。そもそも修繕積立金とは何なのか、なぜ必要なのでしょうか? 住宅コンサルタントの平賀功一さんに聞きました。
●新築マンションの購入時には、修繕積立金の金額にも注目!
「修繕積立金は、将来にわたって安全・安心・快適な生活が送れるように、定期あるいは必要に応じて実施するマンションの共用部分の修繕工事のための資金です。長期修繕計画によって予定される大規模修繕工事の工事費が捻出できるよう、必要な金額を割り出して金額が決定します。長期修繕計画で定められた計画的な修繕工事以外に、地震や火事など不測の事故、その他、特別の理由による修繕などにも使われることを想定しています。」(平賀さん 以下同)
新築マンションの中には、修繕積立金を安く抑えていることもあります。一見するとマンション入居者の負担軽減に寄与しているように思えますが、それには理由があり、メリットとデメリットがあるとのこと。
「新築物件では、販売会社の"売り安さ"を意識した金額設定になりやすいため、修繕積立金が低く抑えられるケースが見受けられます。購入者にとっても新居スタート時期の月々の負担が抑えられるというメリットがありますが、長期的に見れば本来必要な負担の先送りというデメリットでもあります」
また、多くの長期修繕計画では、修繕積立金は建物の建築年数が経過するごとに金額が上昇していきます。これは、建物が古くなるほど、維持管理に必要な金額も多くなるためです。しかし平賀さんによれば、契約当初はそこまで目がいかない人が多いといいます。
「マンションを選び終わったことで満足してしまい、契約書の内容をよく理解していない人は多いです。そのため、金額が上がって初めて負担の大きさに気づく人も少なくありません。新築マンションを購入する際には、修繕積立金の目先の金額だけでなく、先々の計画を意識して見ることが大切です。また、入居後は、マンション管理組合の総会資料で、管理組合が管理している修繕積立金総額の残高にも目を通していきましょう」
また、新築マンションの購入で、もう一つ覚えておきたいのが「修繕積立基金」です。
「来るべき大規模修繕工事の費用不足への備えとして、最近は物件の引き渡し時に諸費用の一つとして『修繕積立基金』を徴収するケースが一般化しています。少しでもマンション購入時の諸費用を低く抑えたい人にとっては、修繕積立基金は大きな負担となりますが、マンションへの入居と同時に、まとまった金額が管理組合の口座にストックされるので、大規模修繕費の資金に余裕ができます。『平成25年度マンション総合調査結果(国交省)』によれば、修繕積立基金の平均額は25万2,000円なので、目安として覚えておくといいでしょう」
●中古マンションの購入時には大規模修繕工事と修繕積立金の値上げ予定を確認!
マンションの購入には、中古マンションを購入する選択肢もあります。その際注意すべきことはどういったことでしょう?
「中古マンションの購入時には、新築マンションのような修繕積立基金の支払いがあるケースは稀です。しかし、中古マンションに入居した途端に修繕積立金が値上げになったり、一時金を徴収されたりすることがあります。これは、売却する人が、修繕積立金が値上げになる、あるいは大規模修繕のための一時金を徴収される直前に売りに出しているからで、珍しいことではありません」
その情報を事前に確認することはできるのでしょうか?
「仲介会社を通じて中古マンションを購入する場合、売買契約を結ぶ前に仲介会社より重要事項の説明を受ける機会があります。重要事項説明にはマンション管理組合の管理形態や委託先、管理費、修繕積立金、さらに売主が管理費や修繕積立金を滞納している場合はその滞納額に関する項目がありますので、疑問点があれば、しっかりと確認をすることが重要です。また、重要事項説明書に情報を記載するための根拠資料として、仲介会社が管理組合から『重要事項に係る調査報告書』という書類を取得しているケースがあります。この書類には、現在の管理費、修繕積立金だけではなく、管理組合の直近会計時点の修繕積立金総額、大規模修繕工事の予定、管理費、修繕積立金の値上げの予定や、修繕積立一時金の徴収の予定なども記載されていることが多いため、よく目を通しておくといいでしょう」
●マンション売却時には、修繕積立基金も修繕積立金も返ってこない
マンションを売却する際、今までに支払った修繕積立金はどうなるのでしょうか?
「所有していたマンションを売却するとき、すでに支払った分の修繕積立金の返還請求はできません。分譲マンションの区分所有者から支払われた修繕積立金は、管理組合にとっての『債権』となり、帰属先は管理組合に移されます。つまり、口座から引き落とされた段階で、修繕積立金は管理組合のものになり、区分所有者のものではなくなるため、返還請求はできないのです」
マンションは人生に中で本当に大きな買い物です。契約時には、住宅ローンや管理費と同様に、修繕積立金や修繕積立基金について説明を受けるとともに、長期修繕計画なども忘れずに確認していきましょう。
取材・執筆:川野ヒロミ
埼玉県出身。1998年よりイラストレーターとライターの2本立てでフリーランスで活動。大手企業のWebサイトの立ち上げなどにも関わる。モットーは「ヒト、コト、モノをわかりやすい言葉で伝える」。
編集協力:有限会社ノオト