家を売ろうと思ったとき、新たな入居先が決まっているとは限りません。売ろうとする家に入居しながら売却する場合もあるでしょう。
そこで気になるのが、「入居中」に売却する場合と、転居してから「空き家」の状態で売却する場合の違いです。転職活動の際は、次の転職先を決めてから退職に動き出す方が良いといわれることもありますが、不動産の売買についても同じことが言えるのでしょうか?成約のスピードや成約率、価格に及ぼす影響は?ソニー不動産の売却エージェントの長谷川保弘さんが解説します。
売り手と買い手の相性が成約を後押しすることもある!
「売却の現場に立ち会っていますと、入居中に売る方がほとんどです。入居中に売る方と空き家の状態で売る方の割合は、8:2ぐらいだと思います。転居後に空き家の状態で売るためには、入居している物件の売却が未だ決まっていない状態で転居先の物件を購入したり、引っ越しをしたりしなければならないなど、予算やスケジュールに制約が生じるからです」(長谷川さん 以下同)
では、それぞれのメリット・デメリットはどうでしょうか。
まず、多数派に該当する「入居中の売却」のメリットについてです。長谷川さんがポイントに挙げるのは、「入居中の売却」では物件の内覧の際に「売主と買主が直接コンタクトする」ということ。人対人のコミュニケーションが売買の成否を決めることもあるようです。
「やはり人間ですから、売主と買主にも相性があります。売主がすごく感じの良い人だったり、地域の話をさりげなく教えてくれたりすると、買主の売主に対する好感度が自然に上がります。『この人が住んでいる家だったら買ってもいいな』と思う方もいらっしゃるようです」
実は、この"好感度"を上げるには、お部屋の状態も重要だとか。
「スタイリッシュな家具で綺麗に住まわれていたりすると、空室の場合よりも格段に印象がアップします。ただ、気を付けなければいけないのは、状態によってはデメリットにもなることです。たとえば、お子さんがいて生活感がにじみ出ていたりすると、『ここに住むのはちょっと......』とネガティブな印象を持たれる方も中にはいるようです。入居中の場合、買主の内覧時間は20~30分程度しか確保できません。そんなわずかな時間で何千万円もの買い物をするわけですから、条件より印象が左右してしまうのも仕方がありません」
もちろん、長谷川さんら売却エージェントは不動産売却のプロフェッショナルとして売主を全面的にサポート。内覧に際して、「日中でもすべての照明をつけておく」「ペットがいる場合は臭いに気を配り、内覧中は散歩に出すようにする」など、買主の視点に立った具体的なアドバイスを行います。
「ケースバイケースですが、旦那さんとお子さんには外出していただき、奥さまだけでご対応いただくこともあります。お家のことを最も把握している人が対応する、ということですね。一方、入居中ならではの機会損失もあります。内覧は週末に集中するため、売主の外出予定などと重なり、なかなか内覧をセッティングできない場合があるからです。買主を案内できなければ、その後の進行はありません」
時間を気にせず、じっくり内覧できるのが空き家のメリット
その点、「空き家での売却」の場合は必ずしも売主が立ち会う必要がないため、内覧のスケジューリングがスムーズに行えます。時間を気にせず、じっくり内覧できるのも空家のメリットです。買主は好きなときに訪問できるため、入居中の物件を売却する場合のような機会損失もありません。
「入居者がいないので収納を全部開けたり、寸法を測ったりする心理的なハードルが下がります。じっくりと物件を見ているうちに入居イメージが湧き、資金計算や購入スケジュールに話が及ぶ買い手もいらっしゃいます。時間を気にしなくてもいいので、リラックスして見られるんでしょうね。速攻で進むのは断然、空き家の方ですよ」
空き家のデメリットを挙げるなら、経年劣化を感じさせてしまうこと。家具を運び出した後の汚れ、日焼けが際立つと、入居中の家より経年感が出てしまうのは避けられません。
入居中なら生活感、空き家であれば経年感が成否を分けることもありそうです。買い手がどう感じるか想像力を働かせ、ベストな状態を目指す必要がありそうです。
取材・執筆:佐々木正孝
ライター/編集者。有限会社キッズファクトリー代表。情報誌、ムック、Webを中心として、フード、トレンド、IT、ガジェットに関する記事を執筆している。
編集協力:有限会社ノオト