家を売却する際は、少しでも早く、希望額に近い価格で売りたいと考える人が多いはず。では、実際に家を売ろうと考えてから成約に至るまでには、どれくらいの期間がかかるものなのでしょうか? また、短期間でうまく売却するための段取りやコツのようなものはあるのでしょうか?
これまで数多くの内覧に立ち会ってきたソニー不動産エージェントの鈴木勝博に、売却期間にまつわるポイントについて聞きました。
●早く売れるかどうかは、「値付け」やその時々の需給バランス次第
まずは、売却を思い立ってから成約までの一般的なプロセスについて。販売にあたり、多くの人は不動産会社を利用しますが、パートナーとなる会社を選定するだけでもそれなりの期間がかかるようです。
鈴木勝博(以下、鈴木)「売却にあたっては、まず不動産会社に家の査定を依頼します。一社だけではなく複数社、多い人だと15社くらいに聞く場合もありますね。全ての査定が出揃うまでには、およそ2週間程度を要します。その後、査定額や売り出し提案額など各社のプレゼンをふまえて依頼会社を決定し、正式に販売活動の依頼をすると約1週間程度で販売図面が完成し、そこから本格的な販売活動がスタートするという流れになります」
以降は内覧などを経て、買い手と物件価格で折り合えば成約にいたるという流れ。ちなみに、販売開始から成約までの期間はケースバイケースですが、早く売れるか長期戦になるかのカギを握るのが「値付け」だといいます。
鈴木「当然、市場の相場よりも安ければ引き合いは多いですし、その逆であればじっくり腰を据えて買い手を待つことになります。ただ、人気エリアであったり、物件自体に付加価値や希少性があれば、相場より高くても早々に成約できることもあります。つまり、相場や需要と供給のバランスを読みつつ、その状況に合わせた適正価格を設定することが必要です」
市場の需給バランスや適正価格は常に変化している為、その時々の状況を見極めることが必要になると鈴木。
鈴木「たとえば同じマンションの同じ間取りがいくつも売りに出されていれば、当然ながら安くて条件のよいものから順番に売れていきます。同条件のお部屋が6300万円で出しているのに、頑張って6500万円の値付けをしてもなかなか買い手はつきませんよね。ただし一方で、その時期にたまたま競合する物件がなければ、6500万円でもポンと売れることもあります。そのため値付けの際には同じマンションの別の部屋や、周辺の似たような条件の部屋がどれくらいの数、いくらで市場に出回っているかをリサーチして把握する必要があるわけです」
なお、リサーチの結果、競合物件がしばらく売り出されていないようであれば、ある程度強気に出てみるのもひとつの手だといいます。
鈴木「人気のエリアであれば、売りが出ないか注視している人が一定数いらっしゃいます。しばらくそこに売り物件の供給がない状況であれば潜在的な『お客様』がたまっている状況もあり得ると考えられるわけです。そこを見極め、ベストなタイミングで売りに出せば、相場よりも高く売れる可能性が高いです」
ちなみに鈴木によれば、2016年、2017年の中古住宅市場は活況を呈しており、比較的高値で売れるケースが多かったといいます。しかし、2018年9月時点ではすでに市況は落ち着き、今後はさらなる停滞が予測されるため、できるだけ早く売りたいと考える人が増えているのだとか。売却時期を検討するにあたっては、こうした全体的な景況感にも気を配る必要がありそうです。
●引き渡しから逆算し、4~5カ月前には準備を開始したい
さて、前述のように、販売から成約までの期間はケースバイケース。とはいえ、やはり余裕を持ったスケジュールを立てておくに越したことはありません。では、たとえば3月末の引き渡しを目指す場合、どれくらい前から準備をしておくといいのでしょうか?
鈴木「3月末の引き渡しであれば、11月くらいには動き出したいところです。できれば、4~5カ月前くらいから販売を開始できるといいと思います。それくらい余裕があると、たとえば最初の1カ月はやや強気の価格にして様子を見ることもできますから。たとえ相場より割高だったとしても、『どうしてもこのエリアで欲しい』といった特別な需要を引き出せる可能性も出てくるでしょう。可能性を追求する価格で販売を開始してみて、思ったよりも問い合わせが入らなければ、その時点で特別な需要の可能性は期待できないと考えて、価格を見直せばいい。実際には1カ月程度をメドに戦略的に価格を見直して進められれば、販売開始から2カ月前後で成約に至るケースが多いですね」
また、「家が売れやすい時期」を見計らって準備しておくことも重要なポイントです。
鈴木「物件のタイプにもよりますが、子どもがいるご家族向けのマンションであれば9月~11月あたりが『売り時』です。というのも、お子さんの小学校入学にあたって引っ越しをする場合、早ければ入学前年の12月くらいに住民票を提出しないといけない学区もあり、そうすると年内には入居する必要がある。そのため、9月あたりから11月くらいまでにかけて物件を探す人が多いわけです。ですから、物件のタイプに合わせ最も需要が高まる時期から逆算して準備をスタートするのが望ましいと思います」
逆に、避けた方がいいのは2月末~3月末にかけての、いわゆる会社の年度末。期が変わる前に売り上げを立てたい不動産会社が一斉に価格の見直しを売主に促す為、安売り合戦に巻き込まれてしまう恐れがあるからです。
鈴木「また、"売れにくい時期"でいうと、物件需要が落ち着く4月や梅雨の時期も難航する可能性が高いですね。このあたりは買い手もゆったりと探している方が多く、そのため、長期化したり、無茶な価格交渉をされてしまうケースが高まる傾向があります」
●少しでも販売期間を長くとるために、やっておいたほうがいいことは?
なお、不動産会社と結ぶ媒介契約の有効期間は法律により3カ月以内と定められています(専任媒介契約・専属専任媒介契約の場合)。この限られた期間の中、担当者になるべく効率的に動いてもらうため、売主側がやっておいたほうがいいことはあるのでしょうか?
鈴木「正式な売却依頼をいただいたあと、まずは室内の写真を撮るところからスタートしますので、お部屋を片付けておいていただけるとスムーズですね。最初の打ち合わせで売却プランの打ち合わせした際にそのままご売却の依頼をいただくことも多い為、その時点で室内の写真が撮れれば時間を短縮でき、そのぶん販売期間を長く取ることができます。あとは、物件の資料も用意していただくと、なおいいと思います。特に、マンションの場合であれば購入時のパンフレットですね。分譲時のコンセプトや共用施設などについても詳しく記載されていますので、より魅力的な提案が買主側へできます」
こうしたポイントをふまえておけば、少なくとも「適正価格」で売れる可能性は高いとのこと。急ぎ売却しなければならない差し迫った事情がないのであれば、入念な準備を行い、余裕を持ったスケジューリングで進めていきたいところです。